ペットに全財産を相続させたい
はじめに
海外のニュースで、「亡くなった大富豪からペットに〇億円の遺産」などといったニュースを聞いたことがありませんか。ペットの相続権を法律で認めている国は珍しくありません。では、日本でペットに全財産を相続させたい場合、どのようにすればいいでしょうか。
ペットは財産を相続できない
日本においてペットは「所有物」です。人間にしか相続を認めていない日本では、残念ながらペットに相続させることはできません。しかし、ペットを家族の一員と考えが広がりつつあり、ペットに財産を残したいと願う人は増え続けています。
そこで、ペットに直接財産を残すことはできませんが、ペットの飼育を頼む人に財産を相続させることで、間接的にペットに財産を相続させることができます。
間接的にペットに相続させる方法
ペットに財産を間接的に相続させる、あるいは財産の恩恵を受けるには、次の3つの方法があります。
①負担付遺贈
負担付遺贈とは、遺言でペットの世話をする人を指名し、財産を相続させる代わりにペットの世話を依頼する方法です。
これは次にご紹介する負担付死因贈与契約とは異なり、遺言書で世話役を指定します。突然自分が世話役になったことを知った人がそのまま遺言を受け入れてくれれば問題ありませんが、「お金はいらないからペットの世話をしたくない」と言われてしまうと、ペットを世話してくれる人がいなくなる可能性もあります。
なお、ペットの世話を受け入れてもらえた場合、遺言通りにペットの世話をしてくれているかどうか、遺言書で指定した遺言執行人によって監視してもらうこともできます。万が一、遺言通りに世話をしてもらえていなかった場合、遺言執行人から改善を要求したり、改善が見込めなかったりすれば家庭裁判所に申し立てて遺贈の取り消しもできます。
②負担付死因贈与契約
負担付死因贈与契約は、亡くなったペットの飼い主が生前のうちに自身の死後のペットの世話について特定の人にお願いし、合意を得たうえでペットの世話を依頼する方法です。
負担付贈与は、遺言によって突然ペットの世話役を指名されるのに対し、負担付死因贈与契約は新旧の飼い主で合意があるので、ペットの世話をいきなり任されることはありません。
なお、双方が契約に合意しているので、放棄も取消もできない点には注意が必要です。
③ペット信託
ペット信託は、残されたペットの世話をしてくれる人や飼育環境を確認したうえで、世話に必要な資金として財産を渡すことを言います。ペット信託を取り扱っている信託銀行などで申し込みできます。
負担付贈与も負担付死因贈与契約も、効力が発生するのは被相続人の死後であるため、亡くなった後に本当に世話をしてくれるかどうか、被相続人が確認することはできません。
一方、ペット信託なら生前のうちから信託先の情報を確認し、備えることができるのでメリットも大きいといえます。また、ペット信託は生前から効力が発生するので生前のうちから新しい飼い主のもとでペットを世話してもらうことも可能です。旧飼い主が認知症になり介護が必要な状態になったときなど、十分な世話ができない段階から利用しても良いでしょう。
なお、ペット信託は弁護士、行政書士、動物愛護団体などの「信託管理人」を通じて、ペットの飼育費などを新飼い主に渡すことで運用されます。これにより、遺産をペット以外の目的で使われる心配がありません。また、ペットが適切な環境で飼育されているかどうかを信託管理人によって監視してもらえるので、確実に世話を任せることができます。
まとめ
ペットは生き物ですが、法律では物として扱われているため、人間のお金を相続できません。自身のペットがそのような扱いにあるのは心苦しく思うかもしれませんが、間接的にならペットに財産を相続させる方法があることをおわかりいただけたことでしょう。
残されたペットの将来を案じている方は、上記にご紹介した方法のいずれかによってペットに「財産」と「安心」を残してあげるといいですね。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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