



相続問題で揉め事が尽きない世の中では、残された財産をすべて自分のものにしようと遺言書を偽造する人もいます。
遺言書が偽造したものであると分かれば、その遺言書は無効となるのでしょうか?
また、万が一既に遺産分割協議を終えた状態でその事実に気づいたらどうなるのでしょうか?
ここでは、遺産分割後に遺言書が偽造であると判明した際の対処法をご紹介していきます。
これから起こる相続に不安を感じている人、他の相続人の言動が怪しいと感じている方は、ぜひご覧ください。
目次
遺言書というのは自筆が可能なもので、法律によって定められた様式を守って書かなければいけない決まりはありますが、それであっても好きな時に書けるという特性があります。
そのため、遺言書を作成した人物が亡くなった後に、遺言書が複数枚出てくる問題もしばしばあるのです。
しかし、本人以外が作成した遺言書というのは全て偽造の遺言書となり、これらは「自書」という要件を満たしていないが故に無効にもなります。
そもそも遺言書は相続人に伝えるメッセージ全文の他に日付や氏名を自書し押印することまで求められているため、偽造である遺言書が見つかったとしても、本物の遺言書だと主張できないのが一般的です。
では万が一、既に遺産分割を終えている場合に遺言書が偽造だったと発覚したとなったらどうすればいいのでしょうか?
遺言書が偽造されたものであったと発覚したら一大事です。
遺産分割をもう既に終えているのであればなおのこと大変なことだと思うことでしょう。
しかしながら遺産分割後であっても遺言書が偽造されたものであると分かった場合には、行われた協議を白紙撤回にできるようになっています。
亡くなった故人が書いた遺言書が見つかったのであれば、その内容に従って遺産を分けることができますし、他に遺言書がなければ相続人同士で再度集まり遺産分割協議をすることが可能です。
再度遺産分割協議はできるようになりますが、肝心の偽造をした相続人は協議に交えることはできるのでしょうか?
事実、偽造した人物は相続権を失うことがほとんどで、協議に関しては相続欠格者扱いとなり協議へ参加できなくなります。
遺言書を偽造し、それを故人が書いた本物の遺言書だと他の相続人に示した場合民事上と刑事上、どちらの責任も負わせられることになります。
民事上では民法891条5号に該当し、相続権を失います。
また、刑事上では刑法159条1項、161条1項に該当し、3ヵ月以上5年以下の懲役に処せられるようになっています。
民事と刑事それぞれの重い責任を負うこととなり、相続人の前に顔出しすることすら厳しい風評を浴びてしまうことでしょう。
偽の遺言書を作った本人は、多くが間違っていることをしていると理解しているにもかかわらず遺言書の偽造を認めようとしません。
民事と刑事で重い責任が科せられると分かればなおのことでしょう。
そういった遺言書の偽造をめぐる問題は、被相続人本人が遺言書を自筆したのかが争点になります。
争いを激しくしないためにも正しい対処法としては、専門家に鑑定を依頼する選択を取っていきましょう。
筆跡鑑定の専門家に鑑定を依頼すれば、故人と偽造した本人の筆跡を見分け、本物の遺言書かどうかを確実に確かめることができます。
筆跡というのは年を重ねて変化していくだけではなく、その日の体調や使った筆記具、さらには書いた時の姿勢によっても変化が現れるものです。
こういった違いは専門家でなければ判断は難しく、筆跡鑑定のプロはこれまで個人が書いてきた手紙などの筆跡と、偽造だと疑われる筆跡を比較して鑑定していきます。
判定の結果偽造されたものだと分かったら、一度成立した遺産分割協議を相続人全員の合意で解除し再協議を行っていきましょう。
遺言書を偽造されないためには公正証書遺言の作成を行うのがおすすめです。
公正証書遺言というのは、公証役場で公証人と証人2人の立ち合いの下で作成されるものです。
原本は公証役場で保管されるので、遺言書が偽造される可能性はほぼほぼゼロに近いでしょう。
過去には他人が遺言者に成りすまして公正証書遺言を作成した事例もあり、偽造されるリスクは全くないとは言い切れないですが、それでも何も策を打たないよりかは安心できるはずです。
費用は公証人の手数料や証人の日当、さらに税理士や弁護士といった専門家に遺言作成のサポートを頼んでいると報酬が必要となりますが、近い親族となる相続人によって大きな過ちを犯されないためにも、こうしてきちんと対策をしておくのがおすすめです。
遺産分割後協議を終えた後に偽造された遺言書だと発覚すると多くの人が焦るはずです。
しかしながら、遺産分割協議はご紹介したように遺言書が偽物だと分かったら再協議が可能になっていますし、遺言書を偽造した本人は相続人の対象外にもなります。
すでに遺産分割が終わったものの、遺言書に納得いかない場合は、専門家に筆跡鑑定を依頼しましょう。
もしかすると偽造されたものだと判明し、自身が受け取れなかった財産を手元に残すことができるかもしれません。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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