



認知症への備えとして、家族信託の利用を検討する人が増えています。認知症を発症した後に財産の管理を家族に任せられるのは安心感がありますね。今回は、家族信託を利用する前に知っておくべきメリットとデメリットも併せて紹介します。
目次
家族内で委託者から受託者に財産が信託され、受託者はその財産を管理・運用・処分します。一般的には親が委託者で、子が受託者と考えるとわかりやすいかもしれません。家族信託は、任意後見制度と比較して財産の管理に重点をおいた制度となります。
認知症を発症すると、意思能力が失われて自身の財産を管理・運用することは難しくなります。そこで、受託者である子に財産の管理を委託すれば財産が守られるので、「認知症になって口座からお金を引き出せなくなった」といった事態を避けられます。
委託者が預金の引き出しや定期預金の解約といった財産の管理ができなくなった時、受託者が委託者に代わってこうした手続きができるようになります。
任意後見人は、資産運用や相続税対策など、本人のメリットになるはずの財産の管理はできません。任意後見人はあくまで被後見人の身上管理を目的とした制度のため、財産に関することまで管理・運用することはできないのです。
しかし、家族信託は信託された財産の運用、管理を受託者に任せられるので、財産の運用や処分なども受託者の裁量により柔軟に決定できます。
遺言とは異なり、家族信託は2代目、3代目と後継者を指定できます。事業を経営している人や家賃収入を得ている人には大きなメリットでしょう。家族信託の契約から30年以内なら、何代先でも承継する人を指定できます。30年経過するとその後の代替わりについては1代限りしか指定できません。
家族信託は遺言としての機能も兼ね備えています。というのも、家族信託で委託者が受託者に対し信託する財産を指定することで、遺言行為を生前に行ったことと同様の効果があり、相続人同士の争いを防ぐことにもなります。
受託者である子が破産したり多額の債務を負ったりしても、差し押さえの対象にはなりません。これを法律上「倒産隔離機能」といいます。信託された財産の所有者は受託者ではなく、委託者にあり、財産は保護されているので安心して財産を信託できます。
任意後見制度では、成年後見人となった人に報酬を支払う必要があります。また、金融機関に財産を信託する場合、高額な信託報酬が発生しますが、家族信託は家族間の契約なので、報酬は家族間で話し合って柔軟に取り決めできます。受託者が納得すればもちろん無料で信託することも可能です。ランニングコストがかからないので気軽に始めやすいと言えます。
メリットが非常に大きい家族信託ですが、デメリットも少なからずあります。任意後見制度と比較すると、家族信託は決して万全な制度ではないことを覚えておきましょう。
家族信託自体が比較的新しい制度のため、詳しい専門家が多くないのが現実です。相続に詳しい弁護士や家族信託を取り扱う金融機関など、信頼できる専門家を探すのが難しいかもしれません。
信頼できる家族に受託することが大前提ですが、受託した家族が財産を使い込む可能性があります。受託者は委託された財産を自身の裁量で自由に管理・運用していいので、投資で大きな損失が出たからといって、損害賠償を請求することはできません。
家族信託は認知症対策として利用するケースが多いのですが、自身の財産を他人に託すことに抵抗がある人も少なくありません。認知症を疑われているようで不快に思い、ますます理解が得られない可能性もあります。
家族信託は成年後見人制度とは異なり、身上保護権がありません。例えば、認知症を発症している人が不動産の売買契約をした場合、成年後見人は取消権があるので契約を取り消すことができます。しかし、家族信託はたとえ認知症の人の契約行為でも取消はできない点に注意が必要です。こうした身上保護権を担保したい場合や、身の回りの世話が必要なケースでは成年後見制度の利用も検討するといいかもしれません。
家族信託のメリットとデメリットについてご紹介しました。
家族信託を利用する場合、委託者と受託者との間に信託契約を締結し、信託専用の銀行口座を開設しなければなりません。今後、家族信託の利用を検討しているという方や、家族信託の手続きが煩雑だと感じる方は、相続に詳しい弁護士にご相談いただければ、適切な運用方法についてアドバイスができます。お気軽にご相談ください。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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