



親や親戚など身近な人に認知症の症状が出たとき、身の回りの世話をしたり金銭の管理や買い物などを支援したりする成年後見人制度を利用できます。
意思能力、判断能力が欠けた人などが「成年被後見人」となりますが、そうした能力がなくても遺言書を作成できるのでしょうか。
結論から申し上げると、民法で定められている要件を満たせば作成自体は可能です。
ただ、その要件を満たすのは決して容易ではないのが現実であり、本来なら遺言能力があるうちに遺言書を作成するべきと言えます。
ここでは、成年被後見人が遺言を作成できる条件と成年後見人制度の概要について詳しくご紹介します。
目次
成年後見人制度は、知的障害や精神障害、認知症などにより、日常の生活が困難な人がいたとき、裁判所による審判で成年被後見人として認定する制度です。
そうした成年被後見人の身の回りのことに目を配りながら、本人を保護・支援する人が「成年後見人」と呼ばれています。
法律上、「自分は何をしているのか、その行為によってどのようなことが起こりうるか」を認識する能力を「事理弁識能力」といい、成年被後見人は事理弁識能力が欠けた人で、日常生活において周囲の人のサポートが必要な状態とされています。
日用品の買い物程度でしたら成年被後見人が単独でできますが、不動産売買といった高額な契約や預貯金の管理などは、成年後見人が代わりとなって行います。
他にも、事理弁識能力が著しく不十分な人の代理する「保佐人」、事理弁識能力が不十分な人を代理する「補助人」もあります。
成年後見人は、財産に関するすべての法律行為について成年被後見人が代理できるのに対し、被保佐人と被補助人は家庭裁判所が審判により決定した「特定の法律行為」に限定されています。
遺言を作成するには「15歳以上」かつ「遺言をするときにおいてその能力を有している」ことが必要です(民法第961条、963条)。
特に後者を「遺言能力」
民法973条では、成年被後見人が遺言書を作成する要件を次のように定めています。
この要件をすべて満たせば、成年被後見人でも遺言を作成できます。
成年被後見人でも上記の要件さえ満たせば自筆証書遺言でも作成可能です。
しかし、遺言者に事理弁識能力が欠けていることを知っている相続人にとしては「これは本当に本人が書いたものなのか?」という疑念が生じ、相続人同士で紛争が起こることも考えられます。
その点、公正証書遺言なら公証人が遺言者から聞いた内容を書面に残していくので、本人の意思に沿った遺言書の作成であることが第三者から見てもわかります。
公正証書遺言だから確実に有効になるとはかぎりませんが、正しい形式に沿った遺言書を作成でき、公証役場で保管できるので、偽造の心配もありません。
成年被後見人が精神障害や認知症の症状がある場合、一時的でも症状が落ち着き、遺言を残せるだけの事理弁識能力があると判断され遺言作成ができる可能性もゼロではありません。
ただ、実際に遺言書を作成しようとしても、遺言能力の有無を判断できる医師2人以上に立ち会いを求めることが極めて難しいのが現実です。
医師、成年被後見人、遺言に関して相談を受けた弁護士など、成年被後見人の事理弁識能力の回復時期などを考慮して決めなければならず、ただでさえ多忙を極める医師のスケジュール調整は困難を極めます。
そのため、成年被後見人本人による強い希望があった時に遺言書を作成することが望ましいと言えます。
成年被後見人の判断能力が戻っていない、あるいは医師による立ち合いができず遺言作成が事実上不可能だからといって、成年後見人が本人の代わりに遺言することはできません。
というのも、成年被後見人は、配偶者や子など、遺産分割協議時に利害関係のある人が選任されることがあり、成年被後見人によって遺言内容が偽造されるおそれがあるためです。
本人の意思に沿った遺言をするためにも、利害関係のない第三者によるサポートを受けながら作成することがベストと言えます。
成年被後見人と遺言作成についてご紹介しました。
親の財産を相続する子にとっては、遺言書があるに越したことはありません。
ただし、認知症が進んでいると、遺言があったとしても信憑性に疑問が残り、相続人同士のトラブルにつながります。
財産を相続する子や配偶者にとっては、認知症の症状が進行する前に、早い段階で遺言書を作成し、遺産分割に備えておきたいと思うのは当然です。
可能であれば認知症が進む前に遺言書を作成することをおすすめします。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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