



法律的に有効な遺言書として認められるためには一定の条件が求められます。自書、押印、日付の記載などといった決まりがありますが、遺言書の日付について相続人同士で争いが起きることは珍しくありません。
例えば、日付の違う遺言書が複数見つかったり、反対に日付が同じで中身が違う遺言書が複数見つかったりした場合、相続人はどのように遺産分割すればいいのでしょうか。ハッキリとした日付がわからなかった場合、遺言書は無効になるのかどうかも気になるかもしれません。ここでは、遺言に書かれた日付にスポットを当て、遺言の優劣について詳しくご紹介します。
目次
遺言は被相続人から相続人への最後のメッセージと言われています。ただ、日付がないものや日付が正確でないものは法律上有効な遺言書として認められません。ここまで厳格に日付について定めている理由として、①遺言作成時の遺言能力を判断する材料となることと、②複数の遺言書が見つかった時に優先する遺言書を決めるために必要という理由が挙げられます。
認知症が進行している被相続人が、遺言作成時にどの程度の認知症を患っていたのか、日付をもとに医師による診断書や介護記録などを見て判断します。すでに重度の認知症を患っていれば遺言書自体が無効となる可能性もあります。
反対に、認知症が進行する前と判断されれば有効な遺言書として成立し、遺言書をもとに遺産分割協議を進められます。こうした遺言作成時の認知症の程度を判断するためにも日付は大変重要なのです。
1度書いた遺言の内容を訂正するためにもう一度遺言書を作成することもあります。古い方の遺言書を破棄していれば問題ありませんが、破棄せず遺言書が複数見つかった場合、原則として日付が新しい方の遺言書の方が有効となります。ただ、内容が抵触しない部分については古い方が優先されます。
例えば、日付が古い方の遺言書に「自宅は妻に相続させる」といった記載があったのが、日付が新しい遺言書には自宅に関する遺言が書かれていない場合に、自宅は妻が相続することになります。
なお、自筆証書遺言と公正証書遺言で複数の遺言が発見された場合でも、日付が新しい方が優先されることに変わりはありません。自筆証書遺言は遺言者が独自に作成するものですが、公正証書遺言は作成にあたって公証人や証人といった遺言に詳しい専門家が介入するので、公正証書遺言の方が有利に思われるかもしれません。公正証書遺言よりも日付が新しい自筆証書遺言が見つかった場合は後者が優先します。
他にも、遺言の日付に関して起こりうるトラブルや裁判例をご紹介します。
遺言を作成した日付は、年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。「自分の75歳の誕生日」「50回目の結婚記念日」というように、はっきりとした日付がわかるものなら問題ありませんが、「平成30年4月吉日」という記載は、裁判で無効と判断されています。
遺言を作成した日付を記載しなければいけないはずが、遺言者が死亡した日以降の日付が書かれている場合、正確な日付の特定が困難なため無効となるおそれがあります。また、「平成34年7月1日」や「令和2年2月30日」というような明らかに存在しない日付が書かれている場合、遺言者の認知能力を疑われてしまい、これも無効になるおそれがあると言えます。
複数の財産を所有したり、遺言内容が複雑だったりすると有効な遺言書を作成するのに時間がかかるかもしれません。1日がかりでも作成できず、作成を終えたのが数日後だった場合、遺言書として成立するかどうかが争われた判例があります。
平成27年4月13日に遺言者が入院先の病院で遺言を作成し、退院して9日後の同年5月10日に弁護士立ち会いの下、押印、5月13日に死亡した事案です。裁判では、遺言書が事実上完成した日付と押印した日付が異なるだけでは無効にはならないと判決しています。(最一判令和3年1月18日)。
同じ日付が書かれた遺言書が複数見つかった場合、どちらが先に書かれたものか判断がつかなければ、抵触する部分について相続人同士で話し合って決定することになるでしょう。
遺産分割が完了したのちに遺言書が見つかったときは、他の相続人に知らせることをおすすめします。自筆証書遺言の場合は、その場で開封せず、裁判所による検認を経てから開封しましょう。
遺産分割は遺言書の内容に従うことが基本ですが、すでに相続人全員が遺産分割協議の内容に納得していれば、やり直す必要はありません。ただし、子どもの認知などの重要な事項が書かれているなら再分配の必要が出てきます。
他にも、遺言で第三者への遺贈がなされている場合も、遺産を受け取る権利のある受遺者を除外して遺産分割協議が行われていた状態になるため、協議は無効となり、やり直しが求められるでしょう。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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