遺言が複数出てきた
人が亡くなった後、遺言書が複数出てくるケースがあります。その場合、どの遺言書の内容に従うのが正解なのでしょうか。
ここでは、遺言書が複数出てきたときの処理について解説します。
遺言書が複数出てきた場合はどうなる?
Q:父親が亡くなった後、複数の遺言書が出てきました。遺言書によって書いてある内容がまちまちなのですが、この場合どのように相続することになりますか?
遺言がある場合、相続では基本的に遺言書に書いてある故人の意思が優先されます。しかし、遺言書が複数ある場合、どれが有効な遺言として扱われることになるのでしょうか。特に、遺言書によって書いてある内容が大きく異なる場合は問題になります。
複数存在する遺言の効力については、民法1023条に規定があります。
第1023条
1項 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2項 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
つまり、内容が矛盾するような遺言がいくつかある場合は、より日付の新しい遺言が古い遺言より優先されるということです。基本的には、最新の日付の遺言が有効になる、と考えておくとよいでしょう。
また、このルールは遺言の種類に関係なく適用されます。例えば、12月20日付の公正証書遺言と翌年1月1日付の自筆証書遺言があった場合は、より日付の新しい自筆遺言書が有効になります。複数の遺言書を見つけたら、まずは日付をチェックしてどれが最新の遺言書なのかを確認しておきましょう。
なお、日付のない遺言書や、たとえ日付の記載があっても「○○月吉日」といった作成日の特定できない遺言書は、そもそも無効ですので問題にしなくても構いません。
遺言書の内容もチェックする
ただし、遺言書が複数あったとしても、内容が矛盾していない部分については、日付の古い遺言書をわざわざ無効にする必要はありません。
例えば、遺言書1に「自宅土地を妻Aに、自宅建物を長男Bに、X銀行の預貯金を長女Cに相続させる」、そして、より新しい日付の遺言書2に「自宅土地・建物を妻Aに相続させる」と書いてあったケースを考えてみましょう。
このとき、遺言書1と2で、自宅建物の相続に関する部分もついては内容が矛盾していますね。したがって、抵触する部分について新しい遺言書が有効、すなわち長男Bではなく妻Aが自宅建物を相続することになります。
一方、自宅土地については遺言書1・2で内容に矛盾がありません。したがって、自宅土地については妻Aが相続することになります。
また、X銀行の預貯金については遺言書2に記載がないので、これも遺言書1・2の内容に矛盾が生じません。ゆえに、遺言書1の内容にある通り長女Cが相続することになります。
遺言書の扱いについては、中に何が書かれているかによっても変わってきます。複数の遺言書が発見されたら、内容についてもよく確認しておきましょう。
複数の遺言書が見つかった場合は弁護士に相談を
複数の遺言書が発見された場合、基本的には最新の日付のものが有効になります。ただ、遺言書の内容で相互に矛盾しない部分については前の遺言書も有効です。もっとも新しい遺言書の内容のみが有効になる、というわけではないので注意しましょう。また、遺言者本人が作成・保管する自筆証書遺言に関しては、偽造や改ざんのリスクがあるほか、形式不備により無効になるおそれもあります。
遺言書の内容チェックなどに関しては、専門知識がないと判断が難しい部分も多々あります。もし何か気になる点があれば、法律のプロである弁護士に一度相談してみてはいかがでしょうか。