相続時に精算されないように生前贈与したい
特定の人に、財産を多く残したいと考える方もいるのではないでしょうか。しかし、生前贈与で多額の財産を誰かにあげる場合には、相続トラブルの原因になることもあるので注意が必要です。
生前贈与には注意が必要?
Q:私には子供が3人いるのですが、自分の面倒をよく見てくれた長男Aに財産を多く残したいと思っています。生前贈与したいのですが、まとまった額の贈与をすると相続時に精算されると聞きました。精算されないように贈与を行うには、どうすればいいですか?
被相続人となる人が生前贈与を行い、特定の相続人に多く財産を残すことはできるのでしょうか。
結論から言ってしまうと、まとまった額の財産の生前贈与は後々相続の際に「特別受益」として問題になる可能性があります。
もし生前贈与が特別受益とされた場合、生前贈与された財産は贈与を受けた人の相続分に反映されます。つまり、贈与を受けた分、その人が相続時にもらえる遺産が減ることになるのです。また、他の相続人の遺留分を侵害するような形で贈与があった場合には、贈与を受けた人が他の人から遺留分減殺請求をされるおそれもあります。
特別受益とみなされる生前贈与とは
もっともすべての生前贈与が特別受益にあたるわけではありません。特別受益について定めた民法903条によれば、次のような贈与が特別受益にあたるとされています。
- ・婚姻もしくは養子縁組のために贈与を受けた場合
- 結婚を機に親に住宅を建ててもらったような場合などが該当します。
- ・生計の資本として贈与を受けた場合
- 事業を始める際に資金提供を受けた場合などが該当します。
なお、実務上では、不動産など多額の贈与があった場合は、特別受益が認定されやすい傾向があります。
持戻しの免除について
特別受益を受けた人がいた場合、原則として相続財産に特別受益の分を相続財産とみなし、それをもとに各自の相続分を計算します(持戻し計算)。
ところが、例外的にこの「持戻し」をしなくてよいケースがあります。
それが、持戻し免除の意思表示があった場合です。これは、被相続人が持戻し希望しないという意思を表明した場合には、持戻しを行わなくてよいというものです。
もし持戻し免除の意思表示があった場合、もし生前贈与があったとしても持戻しは行われません。
つまり、持戻し免除の意思表示を遺言でしておけば、誰か特定の人に生前贈与を行っても精算されることはありません。
ただし、持戻し免除の意思表示をしたからといって、他の相続人の遺留分減殺請求権を奪うことはできません。特別受益を加えた分の財産が遺留分算定の基礎とされるため、他の相続人から遺留分を請求される可能性は十分にあります。したがって、遺留分を侵害するような生前贈与には、十分な注意が必要です。
このように、多額の財産を生前贈与する場合、特別受益や遺留分をめぐって相続トラブルが起きるリスクが高くなります。後の争いを防止するためにも、生前贈与を希望する場合などには、早めに弁護士に相談するのが望ましいといえます。