秘密証書遺言とは?
秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)とは、遺言を作る方が、作成時に誰にも内容を知られないようにしたい場合に利用する遺言書形式です。
通常の遺言書とは違い、秘密証書遺言の場合は、相続人に対して内容を秘密にすることはできますが、自分が遺言書を作成した後、その遺言書は秘密証書遺言であるということを公証人と証人に確認してもらうという手間もあり、現在ほとんど使われることのない方法でもあります。
今回は、あえて秘密証書遺言を作成するメリットや、作成方法について解説します。
目次
通常の遺言書ではなく秘密証書遺で作成するメリット
秘密証書遺言が通常の遺言書よりも優れている点について解説します。
遺言内容を相続人に対して秘密にできる
秘密証書遺言は、相続人はもちろん、担当する公証人も遺言内容までは確認しませんので、誰にも遺言内容を知られたくない場合に非常に有効な方法となります。
遺言書の検認が必要ない
通常、遺言書が発見された場合、勝手に開封してはならず、裁判所の「検認」という手続きが必要になりますが、秘密証書遺言は、遺言者本人が記載し封入するので、遺言者本人が記載したかどうかの確認は不要です。
遺言内容の偽造・変造の余地がない
秘密証書遺言を残す人が遺言書に封をし、公証人が封紙に署名をすることで完成します。
この封が破られているケースや、開かれた跡が残る秘密証書遺言は法律上の効果が認められません。
そのため、相続人や悪意のある第三者から、遺言書の偽造や変造を受ける可能性はゼロです。
秘密証書遺言を作成する方法
遺言内容の決定
まずは、遺言書に書くべき内容を決定します。
相続人の誰にどんな財産を相続してもらうのか、お世話になった方への配分など、希望する内容を記載します。ポイントは、
- 1.日付を特定できる記載をしなければならない
- 2.署名押印を必ずする
- 3.遺留分の侵害に気をつける
の3点でしょうか。
通常の遺言書とは異なる点として、秘密証書遺言は署名だけを自署していれば、開封の際に誰が書いたものか迷う余地もなくなるかと思います。
そして、遺言者が遺言書を封筒に入れ、誰にも見られることなく封印される流れになります。
公証役場へ遺言書をもっていく
遺言書の証人になってもらう人を2名以上用意します。この際
- 1.未成年者
- 2.遺言者の推定相続人と受遺者(遺贈を受ける人)
- 3.配偶者と直系親族
- 4.公証人の配偶者
- 5.四親等内の親族
- 6.書記及び雇い人
上記の方は証人にはなれません。
そのため、司法書士、弁護士などの専門家へ依頼するのが通常です。
もし、証人が見つからない場合は、公証役場が有料で専門家を紹介してくれるケースもあります。
これは、公正証書遺言の場合と同じです。
公証役場での手続きに関して
公証役場にて、公証人と証人の前で封筒の中身は自分の遺言書であること、氏名と住所の告知をすれば、提出日と申述内容を封紙に記載し、遺言者、証人それぞれが署名押印することで、秘密証書遺言の手続きは完了となります。
秘密証書遺言作成時の注意点
財産の分配と相続相手はしっかりと記載
相続財産に関しては、全財産の把握をし、どの相続人に何の遺産を相続させるのかを正確に記載する必要があります。
すべての財産の分け方と記載しておくことで、相続とランブルの回避につながります。
財産として分けにくい不動産であれば、
- 1.家を売却し現金化した価額で分配するのか:換価分割
- 2.不動産の相続は特定の相続人に分け、同価値の財産で分けるのか:代償分割
- 3.また物理的に分けるのか:現物分割
といった方法があります。
さらに、預金口座が1つしかない場合、「預金はAさんが相続する」。
複数の預金口座があった場合、「預金はAさんが相続する」だけでは残りの預金をどうすべきか議論する余地が残ってしまいます。
そのため、預金なら「銀行名」「支店名」「口座の種類」「口座番号」を記載することが望ましいですし、不動産や株式等がある場合、登記簿に記載された内容や株式の銘柄、株数も詳細に記載すべきと言えます。
遺言執行者の専任をしておくと良い
遺言執行者とは、遺言内容を実現させるために、様々な手続き代行する人のことです。
実務としては、「財産目録」の作成、各金融機関の解約手続き、「不動産名義変更手続き」といったものがあり、遺言内容を実現させるためであれば、必要な行為の権限を全て持っています。
遺言執行者は必ずしも必須というものではありませんが、遺言内容を滞りなく遂行させるためには、遺言執行者の存在は大きな意味を持ちます。
他の相続人が勝手に財産を処分したりすることができなくなり、相続に関する手続きがスムーズに進みます。
弁護士などの方の専門家を指定することもできます。
メリットとしては、相続手続きに加え万が一のトラブルにも対応できますので、万全の体制をと問えることができるでしょう。
まとめ
秘密証書遺言は内容が誰にも知られずに遺言内容の秘密性は守られます。
他方、秘密証書遺言は遺言者1人で作成し、公証人による文面のチェックも無い完全秘密な遺言書ですが、不備があった場合その遺言書は無効になってしまうため、使い所は難しいと言えます。
ただし、似たものに「公正証書遺言」という形式があり、こちらは公証人がチェックしたミスのない遺言書で、かつ相続人には内容を秘密にできるハイブリット型の遺言書がありますので、興味があれば、そちらを検討してみてはいかがでしょうか。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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