



遺言書は自分の思いを遺族に伝えるだけでなく、死後に相続人が遺産分割で揉めないようにするのにも大変役に立ちます。しかし、書き方を一つ間違えただけで無効となり、紙切れ同然となってしまうこともあるのです。
遺言書が無効となると相続争いを招きかねません。相続人のためを思って書いた遺言書が、かえって迷惑をかける可能性もあります。残された家族に迷惑をかけないためにも、法律的に有効な遺言書を作成しなければなりません。
そこで今回は、正式な遺言と認められるために必要な要件についてご紹介します。
目次
正式な遺言と認められない要因は大きく分けて2つあります。
遺言の要件については後述しますが、一人で作成できる自筆証書遺言で要件を満たさないために無効になりやすくなります。公正証書遺言では遺言書の作成に慣れた公証人が、遺言者が口授した内容を記述するので、要件を満たさないために不備になることはありません。
認知症やアルツハイマー病が進行し事理弁識能力(判断能力)が疑わしくなった方が作成した遺言書も遺言能力がなかったとして無効になります。自分の遺言の意味を理解し、相続人にどのような結果が生じるのかを認識しているかどうかが遺言能力の有無を判断するポイントとなります。
遺言書が書かれた日付がある一日に特定されたもの出なければなりません。日付の記入がないもの、あるいは正確な日付がわからない遺言書は「いつ書かれたものかわからない」とされ、無効となります。
例えば、「令和2年3月吉日」というように日付を特定できない遺言書を無効とした判例があります。
戸籍上の氏名を記載します。例えば、普段は「高橋」と書いている人でも、戸籍上では「髙橋」としている場合、後者の方を記載します。
押印は三文判でもよいとされていますが、本人が作成したことがわかるように実印が望ましいとされています。
通常、遺言書の署名部分の下に押印されることが多いのですが、基本的には遺言書本体のどこかに押印があれば差し支えありません。判例では遺言書を封入した封筒の綴じ口にあった押印を遺言書の押印とする判例もありますが(最判平成6年6月24日)、封筒は第三者によってすり替えられる可能性もあるので、遺言書本体に押印する方が望ましいでしょう。
遺言書は本人による手書きでなければ無効となります。パソコンを使用して作成された遺言書や、第三者による代筆、録音、録画も認められません。
ただし、高齢者で視力が低下したり手が震えたりして遺言書を手書きすることが難しい場合は公正証書遺言を作成するとよいでしょう。公正証書遺言は本人が口授した遺言内容を公証人が書き残す方式なので自書が難しい場合でも遺言書を作成できます。
なお、自筆証書遺言のうち、財産目録については作成に手間がかかることから、2019年の法改正でパソコンによる作成ができるようになりました。
遺言の書き間違いや作成後に遺言内容を変更することを、法律上は「遺言書の加除変更」といいます。この加除変更のやり方次第で遺言書が無効になるケースがあります。そのため、訂正箇所が多い場合は元の遺言書を破棄して書き直すことをおすすめします。
遺言内容が不明確で、判断がつかないことで無効になることがあります。例えば、「子どもが小さいころよく遊びに出かけた別荘を相続させる」という遺言は、第三者から見るとどの不動産かわかりません。相続人が特定できるのであれば直ちに無効になるわけではありませんが、不動産を相続させるなら、登記簿謄本に記載されている所在、地番、家屋番号など不動産に関する情報を正確に記載するべきです。
冒頭で「遺言能力がなければ遺言は無効」と説明しましたが、これは自筆証書遺言にも公正証書遺言にも同様のことが言えます。
認知症でも自分の遺言をきちんと理解し、よってどのような結果が起こりうるのか本人が認識していなければ、遺言能力はなかったものとして遺言は無効になります。自筆証書遺言はもちろんのこと、有効になる要件を満たす公正証書遺言でも無効になることがあります。
もっとも、遺言能力の有無を客観的に判断するとき、遺言当時に作成された診断書やカルテ、介護記録、遺言者の様子を写した画像や動画といった資料あれば認知症の進行具合を確認できます。遺言書を作成する前の段階で、すでに認知症を発症してしまった人は、症状が進行する前に公正証書遺言を作成し、遺言能力の有無を判断できる資料を保管しておくことが大切です。
遺言書に従った相続手続きをしようとするとき、自分に不利な内容の遺言だった相続人が「この遺言書は無効だ」とか「この時はもう認知症だったから遺言書は無効だ」として遺言無効を訴えることがあります。相続人同士で揉めないようにと思って作成した遺言書が、相続争いのきっかけになってしまっては本末転倒です。
一人では有効な遺言書を作成するのは難しいのではと感じている方、あるいは作成した遺言書が法律的に有効かどうか知りたい方は相続に詳しい弁護士にお問い合わせください。お一人お一人に合った遺言方法をご提案させていただきます。まずはお気軽にご相談ください。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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