ペットに相続する遺言は有効か
自分が死んだ後、ペットの世話は誰が見てくれるのだろうかと不安に感じている高齢者の方は少なくないでしょう。そんなとき、ペットに財産を相続させようと考える方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、ペットに相続する遺言は有効かどうか?というポイントや、ペットに遺産を残す3つの方法などについて解説します。
ペットへの相続は無効
法律上、ペットを相続人とすることはできません。民法では遺産を相続できる対象を人としています。しかし、法律上ペットは人ではなく物として扱われるため、相続人にはなれません。したがって、ペットに遺産を残したい場合は遺言書に「ペットに財産の○割を相続させる」などと書くのではなく、以下でご説明する方法のいずれかを選択することになります。
ペットに遺産を残す3つの方法
ペットを相続人にすることは叶いませんでしたが、ご自身の死後誰かにペットの世話をしてもらうことは不可能ではありません。ここでは、ペットに遺産を残す3つの方法について解説していきます。
- ・負担付遺贈
- ・負担付死因遺贈
- ・信託
負担付遺贈
負担付遺贈とは、財産を贈与する見返りとして、財産を受け取る人に一定の義務を負担してもらうことをいいます。例えば、老夫婦のうち1人が亡くなった時に、配偶者の世話をお願いする代わりに財産を贈与するというのが負担付遺贈にあたります。
同様に、財産を贈与する見返りとしてペットの世話をお願いする旨の内容を遺言書に記入することで、負担付遺贈をすることも可能です。遺言書を作成する際は、ペットの食事の回数やタイミング、何を与えるかといったことや、散歩にはどのくらいの頻度で連れていくかといった、どのように世話をして欲しいのかが具体的にわかるような内容を記入するのが好ましいでしょう。
負担付遺贈によって、遺贈を受けた人はペットの世話をする義務を負います。ただ、「財産はいらないからペットの面倒は見ない」と言われてしまうとペットの世話をしてもらえなくなるので、遺言書を作成する際はきちんと相手の意思を確認しておきましょう。
また、将来的に遺贈を受けた人が、財産だけを受け取ってペットの世話をしてくれないことも考えられます。これを防止するために、遺言で遺言執行者を指定し、遺贈を受けた人がペットの面倒を見ているかチェックしてくれるようにしておきましょう。
負担付死因遺贈
負担付遺贈には、遺贈を受ける人が財産の贈与を断るとペットの世話をしてもらえないという欠点がありました。このリスクを少なくする方法が負担付死因遺贈です。
負担付死因遺贈とは、将来的にペットの世話をしてくれる人と、自分が亡くなった後にペットの世話をしてもらう代わりに財産を贈与する旨の契約をすることをいいます。負担付死因遺贈は、委託者が死亡することで効力が発生する契約です。
遺言でペットの世話をお願いする場合と異なり、話し合いをして双方が合意をすることで契約が成立するので、相手が約束を守ってくれる見込みは高くなるでしょう。ただし、この場合も遺贈を受けた人がきちんとペットの面倒を見てくれないこともあり得るので、負担付遺贈の場合と同様遺言執行者にチェックをお願いするのが無難でしょう。
信託
信託とは、財産を預かり、特定の目的のために財産を運用・管理することをいいます。信託は、元の飼い主とペットの世話をしてくれる人の間で信託契約をすることで成立します。
信託契約後は、あらかじめペット用の口座に財産を入れておき、ペットの世話の対価として、世話をしてくれている人に対して、ペットの育成のための費用や報酬を定期的に支払います。
信託契約をした場合は、ペットの世話を始めるタイミングや世話の方法なども細かく指定できます。
信託を受けた人がペットの世話をしてくれるかどうかが不安な場合は、信託監督人を置くことで、ペットがきちんと世話されているかどうか確認してもらいましょう。
ペットの世話をしてくれる人が見つかったら
ペットを託せる相手が見つかったら、負担付遺贈を含んだ遺言書や、負担付死因遺贈や信託契約を含んだ契約書を作成することになります。ペットの世話を確実に見てもらうためには、契約の内容はできるだけ具体的に記すようにしましょう。例えば、遺贈される財産の内容が不明瞭であれば、そのことを理由にペットの世話を断られるかもしれません。
遺言書や契約書を作成した後は、弁護士にチェックをしてもらうことで内容に不足がないかどうかが確認できます。また、弁護士を遺言執行者とすることで、遺贈を受けた人がペットの世話をしているかどうか確認してもらうこともできます。
まとめ
ペットに相続をすることはできないものの、負担付遺贈、負担付死因遺贈、信託といった方法を使えば、ご自身が亡くなった後に他の人にペットの世話をしてもらうことは可能です。遺言書や契約書に過不足ない内容を盛り込むことも大切ですが、生前に世話をしてくれそうな人を見つけ、細かな条件について十分に話し合っておくことが重要です。
このコラムの監修者
-
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
その他の相続コラム
なぜ弁護士が遺言を薦めるのか
遺言書の作成自分の死後に相続人同士で相続争いをしないためにも、遺言書は作成するべきです。こうした遺言書の必要性は弁護士に限らず、ネットニュースなどでもよく訴えられています。 とはいえ、遺言書を書き始めようとすると自分の財産を把握したり、有効な遺言書として認められるための要件を確認したりと、思いのほか煩わしく、後回しにしてしまいがちです。 それでも弁護士が遺言...
詳しく見る遺言を見つけたが相続人に公開しなかった場合のペナルティとは?
遺言書の作成故人が自宅に保管していた遺言書を相続人が見つけ、それが自分にとって不利な内容だったときはどうすればいいでしょう。 遺言書がなくても遺産分割協議自体はできます。しかし、故人の希望が書かれた遺言書を隠匿し、公開しなかった場合は重いペナルティを負わなければなりません。ここでは、遺言書を相続人に公開しなかった場合のペナルティと、自分に不利な内容の遺言書を見つけ...
詳しく見る遺言書を発見したらどうすればいい?
故人が残された親族に思いを託す大切な遺言書。遺言書は様々な法律や後の手続に絡むため、その扱いには注意が必要です。 今回は遺言書の正しい扱い方を解説していきます。 1 まずは遺言書の保管 遺言書が見つかるほとんどのケースは、自宅において自筆で書かれた遺言が見つかるものです。 遺言が見つかった場合、まずは紛失しないよう大切に保管しましょう。封がされている...
詳しく見る