



推定相続人は、相続が開始する前の段階で「相続人になる予定の人」のことを言います。配偶者は常に相続人で、第一順位が子、第二順位が親、第三順位が兄弟姉妹となりますが、相続欠格や相続廃除により推定相続人にならないケースもあります。では、どのような事由があれば相続欠格に該当するのか、相続廃除との違いも含めて詳しくご紹介します。
目次
相続人としての権利を有していても、相続制度の基盤を揺るがすような破壊行為があった場合に、民事制裁の手段として相続資格をはく奪するものです。
相続欠格は法律上、最低限保証されている遺留分をはく奪するので、重大な非行・不正がなければ相続欠格にはなりません。具体的には次の5つの欠格事由があります。
ここでいう「故意」とは、人を殺害しようとする故意だけでは足りず、殺害の上、相続上の利益を得ようとする故意も必要であるとされています。また、「刑に処せられた者」であることも要件です。執行猶予付きの判決を受けた場合、執行猶予期間が経過すると刑が失効するため、相続欠格とはなりません。
被相続人が殺害されたことを知った相続人が、故意に黙秘し相続上の利益を得ることは同義に反するとして当然に権利を失うと規定しています。
遺言に関して著しく不当な干渉行為をした相続人の相続資格をはく奪するものです。欠格事由に該当する行為をしているという認識(第一の故意)と、不当な利益を得ようとする意図(第二の故意)の2つの故意に該当することが要件となります。
詐欺・強迫によって被相続人に「相続に関する遺言」をさせたり、撤回・取消・変更させたりすることは、著しく不当な干渉行為であり、相続欠格事由になります。これに該当するためには③で紹介した2つの故意が必要であるとされています。
この要件に該当する場合、偽造・変造・破棄・隠匿という行為が、「相続に関して不当な利益を得ようとしているかどうか」がポイントとなります。③と④と同様に、2つの故意が必要とされます。
③~⑤では「詐欺・強迫・偽造・変造など欠格事由にあたる行為をしようとする」ことと「不当な利益を得ようとする」ことという2つの故意が必要と説明しました。では、自分にだけ有利な遺言書を発見した相続人が、他の相続人とのトラブルを避けるために隠匿した場合、その相続人は相続欠格になるでしょうか。
この相続人が隠匿した動機はあくまで「トラブルを避けるため」であり、「不当な利益を得ようとする」ものではないため、この場合は相続欠格に該当しないとされています。
相続廃除は被相続人や他の推定相続人の希望により、特定の推定相続人の相続資格をはく奪する制度です。民法では、廃除事由を次のように定めています。
相続廃除は、家庭裁判所に申し立てて、認められた場合に相続人たる地位を失わせるものです。相続欠格は裁判所に申したてる必要はなく、当然に資格をはく奪される点で違いがあります。つまり、相続廃除は上記のいずれかに該当しても裁判所で認められなければ相続廃除にはなりません。
相続廃除は、単純に推定相続人が被相続人に対して不快な言動があっただけでは足りません。客観的に見て家族関係を破壊しうるような重大な言動でなければ相続廃除は認められません。反対に、当該推定相続人の問題行動が被相続人に起因する場合や、一時的なものに過ぎない場合、廃除事由として認められないケースがあります。
なお、相続廃除は相続資格を回復できる余地があります。当該推定相続人が、生前の被相続人に対して謝罪したり和解したりしたため、推定相続人としての地位を回復させたい場合、家庭裁判所に対して廃除取消の申し立てができます。廃除の時とは異なり、取消の場合は特段の理由は不要です。なお、相続欠格にはこのような相続権が回復することはありません。
推定相続人と相続欠格事由についてご紹介しました。推定相続人の中に遺産を相続させたくない人がいても欠格事由に該当しない場合、相続廃除を検討するといいかもしれません。
なお、相続欠格も相続廃除も代襲相続が可能なので、欠格者や廃除者に子がいる場合、子が財産を相続できる点も覚えておくと良いでしょう。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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