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遺言書を紛失した場合

遺言書を書いたとき、保管場所を迷うことは珍しくありません。自分が生存しているうちは誰にも見つからず、尚且つ自分も覚えていられる場所を決める必要があります。

しかし、物をなくすことは誰にでも起こりうるものです。遺言書の保管場所を忘れてしまい、探したけれど結局見つからなくなる可能性は十分にあります。そうしたときはどうすればいいのでしょうか。ここでは、遺言書を紛失してしまった場合の対処法をご紹介します。
 

自筆証書遺言は書き直すしかない

遺言書の種類は大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。

まず、自筆証書遺言を紛失した場合、改めて書き直すしかありません。

遺言の書き直しは想像以上に手間がかかるものです。財産目録を改めて作成したり、有効な遺言書を作成するための要件を調べたり、自筆証書遺言は好きな時に書ける反面、時間も労力も要します。

そうなると、コピーを保存しておけばいいと思われるかもしれません。しかし、自筆証書遺言は「本人による自筆」でなければ法律上、無効となります(ただし、カーボン紙に複写した遺言書は有効と認められた判例があります)。

書き直しがどうしても手間に感じる方は、改めて探してみましょう。どうしても見つからないときの最終手段として書き直しをするといいかもしれません。
 

遺言書を書き直すときの注意点

遺言書を書き直す場合、紛失した遺言書が見つかった時のことを想定しておく必要があります。紛失していたと思っていた遺言書が、自分の死後、相続人によって見つかる可能性もあるためです。

基本的に遺言書は、日付が新しい方が優先されるのですが、古い方の遺言書にしか書かれていない内容があればその内容についてのみ古い遺言書の記述が有効とされます。

例えば、「〇〇銀行の預金は長男××に相続させる」と書いた遺言を紛失し、その後書き直した遺言書にその記述がない場合、紛失した遺言書の方が優先されます。つまり、紛失した遺言書の記載通り、長男××が〇〇銀行の預金を相続することになります。

これで相続人が納得すれば問題ありませんが、やはり遺言書が複数見つかることは遺産分割協議で混乱が生じる可能性があります。そのため、新しく書き直す遺言書は紛失した遺言書の内容を踏まえた上で書き直さなければならないのです。

災害や火災による滅失など、確実に発見されることがない場合は別として、紛失してどこに保管したのか覚えていないといった状態なら、「以前作成した遺言書はすべて無効とする」旨の文章を付け加えるとよいでしょう。

 

公正証書遺言は紛失しても再発行してもらえる

公正証書遺言は、公証役場に遺言者本人が出向き、証人2人が立ち会って作成する遺言書です。

作成された遺言書は、原本、正本、謄本の3部作成され、原本は公証役場に、正本と謄本は遺言者本人が保管します。かりに自宅に保管しておいた正本と謄本を紛失しても、公証役場に申請すれば謄本を再発行してもらえます。
 

自筆証書遺言の保管制度を利用しよう

2020年から、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえる「自筆証書遺言の保管制度」がスタートしました。

自宅など、遺言者が決めた場所でしか保管できなかった自筆証書遺言は、紛失、偽造、隠匿などのリスクがある上、せっかく作成した遺言書が相続人に発見されず、相続人間の同意のもとに遺産分割協議を進めてしまい、せっかく書いた遺言書が無駄に終わってしまうケースもあります。

そうした事態を防ぎ、尚且つ確実に遺言書を発見してもらうために、自筆証書遺言の保管制度を活用してみてはいかがでしょうか。公正証書遺言より諸費用を抑えられるので、紛失のリスクをなくしたい方はぜひ利用してみるといいですね。

ただし、あくまで保管場所を確保できる制度にすぎない点に注意が必要です。公正証書遺言は遺言書の作成に慣れている専門家が、作成にかかわっているので、内容に不備があって無効になることはほとんどありません。

しかし、自筆証書遺言は遺言者本人が内容を決めて作成するため、法律的に無効となるような遺言書が作成されるおそれがあります。自筆証書遺言の保管を法務局に依頼する際、遺言書保管官は日付、押印の有無といった遺言書が有効となるための要件を確認しますが、遺言内容が有効なものかどうかまでは介入しないのです。

つまり、法務局で保管してもらえれば相続人同士で遺産を巡る争いを防げるわけではないのです。自分の遺産をめぐって「争続」にならないためには、遺言内容を専門家と精査したうえで作成したほうがより確実です。

 

遺言書なら公正証書遺言がおすすめ

このように、紛失のリスクもなく、内容的にも不備がない遺言書を作成するためには、公正証書遺言がおすすめです。作成にあたっては、法律に詳しい専門家が介入し事前に内容を打ち合わせるなどの手間がかかりますが、相続争いをしてほしくない方は、相続に詳しい弁護士に相談の上、公正証書遺言を作成することをおすすめします。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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