特別受益となる預金の引出しについて | 神戸相続弁護士 福田法律事務所

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特別受益となる預金の引出しについて

当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。

50代女性。父が数年前に亡くなってから、80代の母は兄家族と暮らしていました。
その母もほどなくして認知症を患い、持病で亡くなりました。
生前、母の貯蓄は2000万円ほどあると本人から聞いていましたが、口座を確認すると1500万円ほどしか残されていませんでした。
このようなとき、遺産分割ではどのように対処すればいいでしょうか。

亡くなられたお母様の預貯金がどのようにして使われたかによって対応が変わってきます。詳しくご紹介します。

特別受益とは

被相続人から生前、特定の相続人が婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として贈与した財産のことを「特別受益」といいます。

これは相続分の前渡しとしてみなされ、遺産分割協議の際に相続財産として加えることで公平に遺産分割ができます。

今回ご質問をいただいた方の場合、本来あるはずの500万円についてお兄様が使ったかもしれないとのことですが、どのような目的で500万円を支出したかによって対処法が変わってきます。

まずは入出金を確認する

まずは、どのような用途で預金を引き出し、支出したか確認してみましょう。

お兄様本人に聞くのが一番早いですが、通帳の開示を拒否した場合は金融機関に入出金履歴を照会してもらえます。

不足していた500万円について、お兄様がお母様の介護など正当な理由で引き出し、領収書などを確認できて納得のいく説明を受けた場合は、相続開始時に残った1500万円の預金を遺産であることを前提として遺産分割協議を始めます。

特別受益の計算

仮に、お兄様が生活が苦しいために、お母様から生活費として500万円の贈与を受けていた場合は、500万円を上乗せ(特別受益の持戻し)した合計2000万円を相続人同士で分割します。

2000万円を2分の1ずつ分割すると1000万円ですが、お兄様は既に500万円の生前贈与を受けているので、残りの500万円だけ相続できることになります。

そして残りの1000万円の預金を相談者が相続で受け取る、というのが基本的な構図になります。

ここでお兄様が、被相続人の許可を得たうえで預貯金500万円を引き出したことは間違いないものの、その使い道を開示しない場合、使途不明金として処理することになります。

注意すべきは、仮にお兄様が500万円の生前贈与を受けていたとしても、お母様が「この500万円の生前贈与は考慮せずに遺産分割で考慮しないよう」意思表示していた場合(あるいは遺言に記載していた場合)には、上記のような計算はできません。
これを、「持戻し免除の意思表示」といいます。

許可のない預金の引出しは特別受益ではない

生前の引出し

問題となるのは、被相続人の許可なく預金を引き出していた場合です。亡くなる前には気力も体力も弱っており、身内に財産の管理を全て委ねることよくありますので、こういったケースも珍しくありません。

ですが、被相続人の生前に許可なく勝手に預金を引き出すのは、第三者に盗まれたのと変わりません。
生前に無断で預金を引き出した場合は、被相続人が有していた不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権を、相続人が相続することになります。

相続開始後の引出し

被相続人の死後にお金を引き出していた場合、他の相続人は引出した相続人に不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権を構成できます。

結局のところ、被相続人から贈与されていないにもかかわらず、預貯金を勝手に使い、正当な理由なく使われてしまった場合は、当該相続人から返還もらわなければなりません。

使途不明金があった場合の対処法

遺産分割協議は、被相続人の財産をすべて把握できてはじめて協議を開始できます。
すなわち、使途不明金がある状態では、遺産分割協議ができません。

相続人同士の話し合いで解決できない場合は、遺産分割調停で、特定の期日までに使途不明金の取り扱い方について話し合い、合意を目指します。

調停で合意に至らなかった場合は、民事訴訟によって解決することを促す運用が行われています。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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