法律上の争訟
家庭裁判所は、遺産分割に関する争いのすべてに対して終局的判断を下せるわけではありません。家庭裁判所の終局的判断の範囲には、法令上の限界があります。
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関して、法令の適用により終局的に解決できる性質の紛争を「法律上の争訟」といい、この法律上の争訟に関しては、地方裁判所・高等裁判所・最高裁判所などの裁判所の訴訟(いわゆる普通の裁判)でしか終局的判断ができません。
遺産分割に関しては、どのような事項が法律上の争訟にあたるかというと
①ある人が相続人であり相続権があるかどうか(相続人の範囲)
②個別具体的な財産が遺産に含まれるかどうか(遺産の範囲)
③遺言が有効かどうか
などは法律上の争訟にあたり、家庭裁判所の調停又は審判では終局的判断ができません。家庭裁判所は、これらについて争いがない場合に、その事実を前提に遺産をどのように分割するかを判断します。
とはいえ上記①から③について争いがある場合も、調停又は審判の手続中で当事者間の合意を形成できるならばその合意を前提に分割を進めますので、争いがある場合でも家庭裁判所が全く受け付けてくれないわけではありません。しかし、最終的に家庭裁判所で合意が形成できないならば、地方裁判所等の訴訟その争いを先に決着させ、その後に家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を申し立てる必要があります。
この点は直感的には理解しにくい部分だと思います。相続事件を担当する弁護士は、訴訟を先行させるのか調停又は審判で合意を目指すのか、紛争の実情を見極めながら判断します。 同じように、よく争いになるにも関わらず、家庭裁判所で終局的判断ができない事項には以下のようなものがあります。
④相続開始前に相続人の一人によって引き出された預貯金の精算を求める請求
⑤相続開始後に相続人によって費消された財産の精算を求める請求
これらの争点についても、調停手続で合意ができそうにない場合、譲歩を示してあくまで調停成立を目指すのか、別途訴訟を提起して決着をつけるのか、最終場面で判断を迫られることになります。