大切なご家族(以下:被相続人)が亡くなると、遺産相続が発生します。被相続人が所有していた財産は相続人が受け取ることになりますが、もしも被相続人に「前妻との間で生まれた子ども」がいる場合、どのように相続手続きを進めることになるのでしょうか。
そもそも「前妻の子」が相続人になるのか、そして遺留分はどのようになるのか調べておきたいという方は多いでしょう。
本記事では被相続人に前妻との間で生まれた子がいる場合に、あらかじめ知っておきたい遺留分や相続手続きの流れ、注意点をわかりやすく解説します。
目次
再婚した後に被相続人が亡くなった場合、「前妻との子」は相続においてどのように扱うのでしょうか。結論から言うと、前妻との子には、後妻との間の子と全く同じ相続権が認められます。 誰が相続人になり、どの程度の権利があるのか詳しく解説します。
夫婦が離婚をしても、親子の血縁関係が消えることはありません。 そのため、前妻との間の子は、法律上常に「第1順位の法定相続人」となります。
離婚時の親権がどちらだったのかも、相続権には影響しないため、前妻が親権を有していたとしても子は亡くなった父の相続人です。
また、被相続人には何十年も会っていない、あるいは音信不通であったとしても、相続権が消えるわけではありません。
前妻の子と、後妻(現在の配偶者)との子との法定相続分の割合は、どのようになるのでしょうか。
■相続分の割合の事例
被相続人に前妻との間で生まれた子が1名、後妻である現在の配偶者との間で生まれた子が1名、後妻も健在であると仮定し、相続の割合を解説します。
「前妻の子」と「後妻の子」の法定相続分は法律上同じです。子の取り分である2分の1を、子の人数で均等に分け合います。
離婚した時点で、前妻と被相続人の法律上の婚姻関係は解消されています。そのため、前妻に相続権は一切ありません。 相続の手続き(遺産分割協議)に参加する権利があるのは、あくまで「子」本人のみです。
ただし、前妻の子が未成年者の場合、その親権者である前妻が「法定代理人」として協議に参加することになります。この場合、間接的に前妻が手続きに関与することになります。
前妻との間では婚姻届を出さず「内縁関係(事実婚)」であった相手との間に生まれた子の場合は、「認知」されているかどうかが相続手続き時に影響します。
l 認知されている場合
法律上の親子関係が認められるため、婚姻関係にある夫婦の子(嫡出子)と全く同等の相続権を持ちます。
l 認知されていない場合
法律上の親子関係がないとみなされ、そのままでは相続人になれません。
前妻の子にも法定相続分があるため、遺留分も認められています。もしも後妻と、後妻との間の子だけで相続手続き(遺産分割など)を進めてしまうと前妻の子ももらう権利がある法定相続分や遺留分を無視してしまうことになるため注意が必要です。そこで、本章では想像手続き時には必ず知っておきたい遺留分について解説します。
相続時の遺留分(いりゅうぶん)とは「残された一定の相続人に最低限保障されている、遺産の受け取り分」のことです。民法1042条以下にて定められており、受け取れる方は配偶者、子、直系尊属(親など)に限られています。つまり、前妻の子は遺留分を受け取る権利があります。
兄弟姉妹は遺留分の対象外です。
遺留分の割合も民法で定められています。前妻の子がいる場合の遺留分については以下の図のとおりです。
|
遺留分を受け取れる人 |
受け取れる遺留分 |
|
現在の配偶者 |
4分の1 |
|
後妻との間の子 |
8分の1 |
|
前妻との間の子 |
8分の1 |
遺言書がある場合、原則としてその内容が法定相続分よりも優先されます。しかし、遺留分については遺言書があっても受け取る権利は消えません。
例えば、遺言書に「すべての財産を現在の配偶者との間の子に渡す」と書かれている場合、その遺言自体は有効です。ただし、前妻の子は遺留分を侵害されたとして、財産を受け取った子(後妻との間の子)に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。遺留分を支払う必要が生じた場合、原則として金銭で請求者側へ遺留分相当額を支払う必要があります。
遺言書がない場合、被相続人名義の財産をどう分けるかは相続人全員による「遺産分割協議」で決める必要があります。たとえ前妻の子とは面識がなくても、前妻の子を含まない遺産分割協議は無効です。
前妻の子の住所や連絡先がわからない場合でも現住所を調査し、手紙などで連絡を取らなければなりません。遺産分割協議が完了しないと、被相続人名義の預貯金口座の解約や不動産の相続登記(名義変更)が進められないため注意が必要です。
すでに前妻とその子とは長年疎遠になっている場合、現在のご家族が一緒に築き上げてきた財産を相続によって渡すことに抵抗感を覚える人は多いでしょう。では、前妻の子に財産を相続させない方法はあるのでしょうか。考えられる対策方法を本章で紹介します。
遺言書がない場合、前妻の子と必ず話し合い(遺産分割協議)をしなければなりませんが、遺言書があれば遺言内容が優先されます。
遺言書があっても遺留分は消滅しないため、あえて前妻の子には遺留分に相当する額のみを相続させる旨を記載することで、その他の財産を渡さないことが可能です。遺留分相当額を渡すことで遺留分侵害額請求を受けるリスクを減らせます。
財産を元気なうちに、後妻やその子へ財産を移しておく方法もあります。「生前贈与」を進めておくことで、将来の相続財産を減らす効果があるためです。暦年贈与などの方法で安全に財産を移していきましょう。
ただし、現在段階的に原則7年以内の贈与について持ち戻して計算されるルールも始まっています。税制や遺留分のルールは変更も多く注意が必要です。
「自分が亡くなった後、特定の人物にだけ財産を渡したい」と考える場合、有力な選択肢となるのが死因贈与と遺贈です。
①死因贈与
死因贈与とは、「私が死んだらこの不動産をあなたにあげます」という、あげる人と受ける人の間の契約です。双方の合意があれば契約が成立します。また、「介護をしてくれたら譲る」といった条件付き(負担付死因贈与)にすることも可能です。
書面(死因贈与契約書)を作成していないと、後から「そんな約束はしていない」と否定されるリスクがあります。また、不動産を譲る場合は、遺贈よりも不動産取得税が高くなるケースがあるため、税金のチェックが欠かせません。
②遺贈
一方の遺贈とは、遺言書によって財産を無償で譲ることを指します。遺言者の意思(単独行為)でいつでも内容を決められます。相手に事前に知らせる必要もありません。
ただし、公正証書遺言などできちんとした形式で残さないと、形式不備で無効になるおそれがあります。また、遺留分を無視した遺贈は後にトラブルを招く可能性あります。遺言書の作成には遺留分のチェックが必須です。
生命保険金は、法律上で「受取人固有の財産」とみなされるため原則として遺産分割の対象外となります。死亡時に特定の人(後妻や後妻との間の子など)に確実に現金を残せます。
ただし、その他の相続財産に関しては遺留分が発生するため注意が必要です。受け取った死亡保険金を遺留分の支払いに充てることも検討できるでしょう。
亡くなった後、前妻の子も含めた相続人全員で話し合った結果、前妻の子が「財産はいらない」という内容で遺産分割協議が成立する、あるいは相続放棄を選択する場合には相続させないことが可能です。
遺産分割協議は話し合いのためストレスを抱えることもありますが、被相続人の介護を長年行っていたケースでは寄与分を主張することも可能です。ただし、遺産分割協議での話し合いが難航した場合、家庭裁判所での遺産分割調停に発展するおそれもあるため慎重に進める必要があります。
前妻との間に子がいる場合には、どのような相続トラブルが発生しているでしょうか。本章では実際に多発しているよくあるトラブルを紹介します。
遺産分割協議や相続手続きには相続人全員の協力が欠かせません。遺産分割の結果を書面化する遺産分割協議書には、相続人全員の署名と捺印が必要です。しかし、前妻の子の居住地や連絡先がわからず、協議自体が進まないケースがあります。遺産分割協議には法的な期限はありませんが、相続登記や相続税申告等の手続きには期限もあるため、事実上こうした手続きの期限までに終えることが望まれます。
もしも前妻の子の行方がわからない場合は弁護士等の専門家へ依頼して住民票や戸籍の附票から住所を特定し、手紙を送るなどの対応が必要です。
「被相続人の財産は一緒に築き上げてきた」と主張する後妻側と、「法律上の権利として受け取れる財産は欲しい」と主張する前妻の子側では、対立が起きやすくなります。
感情的な対立から話し合いが全く進まず、家庭裁判所の調停にまで発展することも珍しくありません。遺産分割調停や寄与分の主張を検討する場合、相続の解決までに時間を要する傾向があります。
前妻の子を無視して、後妻と後妻の子だけで遺産を分けてしまうと、遺産分割協議自体が無効になるだけでなく、前妻の子から遺留分の請求などを受ける可能性があります。
また、前妻の子を抜きで相続手続きを進めようとしても、金融機関などからストップがかかるため相続財産を受け取ることができません。
後妻側の家族が相続財産を得るために、前妻の子に「相続放棄をしてほしい」と伝えたい場合には、慎重に連絡内容を検討する必要があります。強く相続放棄を求めた結果、以下のようなトラブルに発展するケースが目立ちます。そこで、本章では相続放棄を求める愛の注意点と対処法を紹介します。
相続放棄は、あくまでも相続人の自由意思で行うものです。後妻や後妻の子が相続放棄を強制したり、やんわりでも相続放棄を促すと前妻の子は「自分は軽視されている」「父との縁を否定された」と感じ、強く反発してかえって権利(遺留分など)を厳格に主張するケースもあります。
相続放棄を求めたい場合でも、まずは慎重に遺産分割協議への参加を依頼するなど、注意深く進める必要があるでしょう。
前妻の子に対して「将来揉めないように、今のうちに相続放棄をしておいてほしい」と頼むケースもありますが、生前の相続放棄は法律上認められていません。ただし、遺留分の生前の放棄は可能です。
遺留分の生前放棄は家庭裁判所での手続きが必要であり、お願いしても面倒に感じるなどの観点から難航するおそれはあります。生前贈与による財産の付与など、対策を検討した上で依頼するなどの方法が考えられます。
連絡を無視される、居住地はわかっていても会ってもらえないという状態に陥るケースもあります。特に前妻との離婚時にトラブルになっている場合、前妻の子も「会いたくない」「関わりたくない」という気持ちを抱えていることは多く、相続人間では上手く話し合いが進まないことは少なくありません。このようなケースでは弁護士等へ依頼し、所在の調査や交渉を依頼することになります。
前妻との子も含めて相続手続きを進める必要がある場合、どこに相談するとよいでしょうか。悩みは専門家へ相談し、早急な遺産分割協議の成立を目指しましょう。本章では検討できる主な相談先を説明します。
「相手の住所がわからない」「長年交流がないので、最初の連絡をどう切り出すべきか悩んでいる」という段階では、行政書士や司法書士への相談が検討できます。不動産がある場合は相続登記が必要となるため、司法書士への相談がおすすめです。
感情的な対立を避け、円満に遺産分割協議をスタートさせるための「丁寧なご挨拶文」の作成をサポートしてくれます。遺産分割協議書の作成や戸籍謄本類の取得代行も可能です。
「話し合いが平行線で進まない」「相手が法外な金額を要求してくる」など、すでに具体的な紛争に発展している場合は、弁護士への相談が必要です。
弁護士は依頼者の代理人として、直接相手方と交渉できます。前妻との子と話をしたくない、という場合でも依頼がおすすめです。家庭裁判所での遺産分割調停や訴訟が必要になった場合なども継続して代理人として対応できます。
前妻の子から「遺留分(最低限の取り分)を支払え」という通知(内容証明など)が届いた場合、放置するのは非常に危険です。この場合も、早急に弁護士に相談してください。
相手の請求額が正しく計算されているかなどもしっかりと確認し、減額できる余地がないかを法的に精査します。
この他、相手方に弁護士がいる場合も交渉が難航化する可能性があるため、弁護士への相談・依頼がおすすめです。
前妻との子がいる相続が予想されている場合、生前から対策を行いたい方も多いでしょう。法律や手続きの知識がなければ進めにくい相続対策は多いため、実績豊富な専門家への草案がおすすめです。そこで、本章では生前からの相続対策における相談先を解説します。
「前妻の子にも配慮しつつ、今の家族に多くの財産を残したい」という、主に親族間の紛争予防を目的とする場合は、弁護士への相談が適しています。弁護士への費用が気になる場合は、まずは初回の法律相談料が無料のところに相談してみましょう。
遺言書は単に財産の分け方を指定するだけでなく、なぜそのような分け方をしたのかという「想い(付言事項)」を記すことが重要です。遺言書の作成時には弁護士を遺言執行者を指定しておくことで、円滑な遺産の分配も可能です。
遺留分を侵害しないように配慮しつつ、親族の感情にも考慮した文案の作成をサポートします。
■公正証書遺言の作成がポイント
遺言書は無効となるリスクが低い公証役場で作成する「公正証書遺言」がおすすめです。自筆証書遺言は検認が必要となるほか、無効リスクも高い傾向にあります。
「生前贈与をしたいが贈与税が心配」「将来、後妻や子が相続税を払えるか不安」という、税金面での不安がある場合は、税理士への相談にメリットがあります。
早くから家族への資産の移転を検討する場合、贈与税や相続税の持ち戻しを考慮しながら進める必要があるため、早めに税理士へ相談しましょう。資産の状況に合わせて家族信託などの方法や税制上のメリットなども教えてもらえるため、節税効果もあります。
また、相続開始後に相続税の納税が必要とわかったら、早めに申告・納税について税理士へ相談することがおすすめです。
前妻との間に子がいる場合の相続は、法律上の権利が明確である一方で、感情的な対立が起きやすく、遺産分割の進め方が難航しやすいものです。
前妻の子は常に「第1順位の相続人」であり、後妻の子と全く同じ相続権(および遺留分)を持っており、遺留分も請求できる権利を有しています。
「家を継ぐ家族」と「血縁のある子」、双方が納得できる着地点を見つけるのは容易ではありません。少しでも不安や迷いがある場合は相続人以外の第三者である弁護士へ相談し、円満な解決を目指しましょう。
このコラムの監修者

福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。
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