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特別受益と寄与分の違い

遺産分割において、「特別受益」と「寄与分」について相続人同士で揉めているという相談を受けることがあります。
どちらも遺産分割の不平等を解消することに変わりはありませんが、その性質、相続額の算出方法は大きく異なります。 

特別受益は「遺産の前払い」

特別受益は、特定の相続人が被相続人か遺産の先渡しのような遺贈または贈与を受けることをいいます。

例えば、相続人のうちの一人が、被相続人から生前、事業を開始するための開業資金、結婚の支度金などを受け取っていた場合などがこれにあたり、その遺贈または贈与の価額も含めた総額を相続財産とみなします。

そして、その相続財産をもとに各相続人の相続額を算出し、当該相続人がすでに受けている遺贈ないし贈与の額を控除した金額が実際の相続財産となります。 

つまり、「特定の相続人が、遺産を先に受け取っているもの」とみなすので、相続分の計算する際には贈与の金額も加算したうえで算出します。これを「特別受益の持戻し」といいます。持戻す財産は「婚姻もしくは養子縁組のための贈与」と「生計の資本としての贈与」が該当するとされています。

寄与分は寄与分額を先に控除する

一方、寄与分は被相続人の財産の維持または増加について特別な寄与をした相続人がいる場合に、その相続人に対して法定相続分よりも多く財産を取得させることです。ゆえに、寄与分は、特別受益のような「持戻し」はありません。

寄与行為には、次の5種類の類型に大別されます

①家事従事型…家業を手伝うなど、被相続人が営んでいた事業に労務を提供
②財産給付型…資金援助など、被相続人の事業に対して行った財産上の給付
③療養看護型…介護など、被相続人に対して療養看護を行うこと
④扶養型…扶養を要する状態の被相続人を扶養に入れること
⑤財産管理型…被相続人の財産を管理し、管理費用の負担を当該相続人が行い、財産の管理・維持をしたこと

それぞれの類型によって、寄与分の算定方法が異なります。

特別受益の計算方法

特別受益は、遺贈または贈与した財産も遺産に加算してから遺産分割を行います。

例えば、夫Aが死亡し、Aの遺産5000万円を妻Bと長男C、長女Dが相続するとします。
法定相続分で算出するとBは2500万円、CとDはそれぞれ1250万円を相続します。

しかし、生前、Cに住宅購入資金として1000万円、Dに結婚の支度金として400万円を贈与していた場合、Aの相続財産は総額で

5000万円+1000万円+400万円=6400万円 

となります。

法定相続分をもとに各相続人の相続額を算出するとBが3200万円、CとDは1600万円です。
CとDはそこから遺贈ないし贈与を受けた金額を控除します。

Cは1000万円を持戻すので 1600万円-1000万円=600万円
Dは400万円を持戻すので 1600万円-400万円=1200万円

となります。

寄与分の計算方法

寄与分は、「被相続人の財産の維持増加に寄与した相続人に対して相続分を多くする」ことを目的としています。遺産分割よりも前に寄与分を算出して相続分の不平等を解消させます。 

例えば、夫Aが死亡し、Aの遺産5000万円を妻Bと長男C、長女Dが相続するとします。

Aが生前、認知症と持病により療養看護が必要な状態となり、Bが2年間にわたって献身的に介護を行った場合の寄与分を計算してみましょう。

Bの寄与行為は上記③の「療養看護型」にあたり、

・相続人が利益を得ていないこと
・継続的に療養看護したこと
・専従的に療養看護したこと
・相続人と被相続人との身分関係に照らし通常期待される程度を超えた療養看護があったこと

などの事情を考慮して寄与分を計算します。
計算式は

ヘルパー・看護師等の職業的付添人の日当額×療養看護日数×裁量的割合

日当は厚生労働省が定める介護報酬額を参考にして決めます。裁量的割合は、被相続人との身分関係、被相続人の状態(寝たきり、要介護度など)、専従性の程度(同居、別居など)療養看護に従事するに至った理由等を考慮されるため、個々の事情によって数値は異なります。

仮に日当が6,500円、裁量的割合を0.6として上記の計算式をあてはめると、Bの寄与分は

日当6,500円×療養日数2年(365日×2年)×0.6=約285万円

Aの遺産5000万円から285万円を差し引いた4715万円が遺産総額となり、この金額をもとにB、C、Dの相続人が遺産分割協議を行うことになります。

なお、ここで挙げた日当も裁量的割合も、参考例をご紹介するため便宜上用いた数値であり、実務ではさらに正確な数値で計算をします。

詳しい算出方法は弁護士に相談を

特別受益も寄与分も、その性質・計算方法ともに全く異なるものです。ただ、どちらも計算が難しく、相続人同士で決めるのは限界があります。

実際に、特別受益や寄与分をめぐって相続人同士が対立しているときは、法律に詳しい弁護士に相談した方が解決へとつながりやすくなるでしょう。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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