遺産の使い込みへの対処法
当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。
病死した父の通夜葬儀を終え、私と母、弟の3人で遺産分割を行う運びとなりました。しかし、父の預金通帳を確認すると、父の死亡時刻からわずか数時間後に預金通帳からほぼ全額の引き出しがあるのを確認しました。私は身に覚えがなく、母と弟に確認してもどちらも「知らない」「わからない」の一点張りです。しかし、父の銀行口座を管理できたのは、同居していた母か弟のどちらかです。このようなときはどうすればいいのでしょうか。
正しい遺産の総額を把握できなければ、遺産分割協議ができません。相続税の申告にも期限があるので、このような遺産の使い込みには速やかに対処する必要があります。では遺産を使い込まれたとき、どのように対処すればいいでしょうか。
使い込まれた遺産は返還請求できる
使い込まれた遺産は、相手が使い込みを否定していても証拠さえあれば返還してもらうことができます。これを「不当利得返還請求権」といい、不当に利益を得た人に対して損失を被った人がその利益を返還するよう求める権利があります。
金銭の支払いを求める権利として「損害賠償請求」という言葉も聞いたことがあるかもしれません。損害賠償請求は、「不倫をした」「借金を返さない」などの不法行為があり、実際に損害を被ったことが条件となります。一方、不当利得返還請求は相手に不法行為がなくても請求は可能です。あくまで法律上正当な理由なく利益を得て、他人に損害を与えたことが条件となります。
返還してもらえないケース
例えば、引き出した遺産を全額使いこんでしまい、お金が手元にない状態では、返還してもらうのは難しいでしょう。また、「使い込んだ『証拠』があれば請求できる」とご紹介しましたが、言い換えれば証拠がなければ請求はできないということです。
また、すでに時効が成立している場合も、返還してもらうことはできなくなります。不当利得返還請求の時効は損害の発生から10年です。使い込みからすでに10年以上経過している場合は請求ができないので注意しましょう。
不当利得返還請求をする前に「警告」をする
遺産の使い込みが見つかったときは、いきなり不当利得返還請求を行う前に、相手に対して「警告」をします。
遺産を使い込んだ人は、たいてい使い込みを否定します。そこで「必要があれば法的措置を取る」と、遠回しに裁判をちらつかせるのです。すると、使い込んだ本人は驚いて何らかのアクションを起こすことがあります。
ただし、相手が何のアクションも起こさない、または裁判をちらつかせてもなお否定し続ける可能性もあるので、このような「警告」は、相続問題に詳しい弁護士に任せた方が賢明です。その後の交渉や不当利得返還請求をするときにも、弁護士が頼りになるからです。
今回ご質問をいただいた方の場合のように、誰が遺産を使い込んだのかわからない状況においては、この警告にはより一層慎重さが求められると言えます。相続に強みを持つ弁護士に相談して、解決方法を模索してみてはいかがでしょうか。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。