相続対策としての養子縁組の是非
相続税は法定相続人の人数が多ければ税額も少なくなります。相続対策の一環として、実子以外の孫などにも相続させるために養子縁組をする方法はよく知られていますね。
確かに相続税節税にはなりますが、実際に養子縁組をする場合には注意すべきことがあります。ここでは、相続対策として養子縁組を検討している場合に知ってほしい養子縁組の概要と注意点についてまとめました。
目次
なぜ養子縁組をすると相続税対策になるのか
相続税の基礎控除額は法定相続人の人数によって変わります。基礎控除額の「3,000万円+600万円×法定相続人の数」よりも相続財産が少なければ相続税を納める必要はありません。つまり、法定相続人の数が多いほど基礎控除額が高額になり、税率にも影響するので同じ課税価格でも相続税の総額が少なくなるのです。
そして養子縁組を利用した相続税の節税は一時期多く利用されていましたが、不当な相続税の回避防止のため法改正がなされ、養子縁組できる人数が制限されるようになりました。具体的には下記のとおりです。
- (1)被相続人に実子がいる場合または相続人に実子がなく、養子の数が1人である場合…1人
- (2)被相続人に実子がなく養子の数が2人以上である場合…2人
つまり、被相続人に実子がいる場合は最大で1人、いない場合でも最大で2人までしか法定相続人になることはできません。
養子縁組の手続き
養子縁組は役所に養子縁組届を提出することで成立します。養子が未成年の場合は、法定代理人が子に代わって縁組を承諾します。また、未成年を養子にする場合、家庭裁判所に「養子縁組許可の審判の申立」をしなければなりません。これは、未成年者を労働のために養子にするといった悪用を防止するためにあり、通常は許可されます。
なお、孫や配偶者の連れ子を養子とする場合は、未成年者であっても親の承諾があれば家庭裁判所の許可は不要です。
養子縁組が無効になるケース
養子縁組は、当事者間に縁組をする意思がなければ無効となります。「縁組をする意思」とは、当事者間で養親子関係を築こうとする意思とされています。過去の裁判では、他の相続人への相続を妨害するために養子縁組をしたケースは無効という判決が出ています(名古屋高判平成22年4月15日)。では、もっぱら相続税節税を目的とした養子縁組が、果たして「縁組をする意思」があると認められるかどうかが問題となります。
これについては、相続税節税のための養子縁組であっても直ちに当該養子縁組について「縁組をする意思」がないとはいえず、裁判で有効として認められたケースがあります(最判平成29年1月31日)。たとえ相続税節税のための養子縁組でも、親子関係を創設するものであると双方とも認識していることが求められます。
養子縁組のデメリット
このように節税効果が高い養子縁組ですが、次のようなデメリットもあります。
①孫を養子にする場合、相続税が2割加算される
孫を養子にした場合、通常の相続税より2割加算されます。孫だけでなく、甥や姪などの法定相続人ではない第三者を養子にした場合も同様です。
②未成年者を養子にすることで法定代理人が不在になるおそれがある
未成年を養子縁組する際には、法定代理人が不在になるリスクを考慮しなければなりません。
夫A=妻B
│
長男C=長男の妻D
│
長男Cの子E(未成年)
例えば、相続対策のために夫Aと妻Bとの間に長男Cの子であるEを養子縁組した場合、Aが亡くなった後はBがEの単独親権者となります。ところが、Eが成人する前にCが亡くなった場合、Eは未成年のため、遺産分割協議ができません。実親であるDは利益相反関係にあたるため、Eの代理人にはなれないのです。
通常、相続人の中に未成年がいる場合、法定代理人が本人に代理して遺産分割協議を行います。その法定代理人を立てるのにも、家庭裁判所に申し立てが必要になり手間に感じるかもしれません。
他にも、養子縁組後にBが亡くなった場合、Eの親権者が不在となります。この場合、死後離縁の手続きによって被相続人と離縁でき、実親に親権者を変更することが適当と認められれば、許可されることが多い傾向にあります。
④一人あたり相続できる財産が少なくなる
法定相続人が増えると、一人あたりの財産の取得分が少なくなります。それが原因で実子と養子で相続争いになる可能性もあります。そのため、相続人である実子や養子にはあくまで相続対策の養子縁組であることを生前に伝えておくとよいでしょう。
⑤あからさまな相続対策だと税務署に見抜かれる可能性もある
相続税の負担を不当に減らそうとする養子縁組だと判断された場合、税務署長が更生または決定に際し、当該養子の数を法定相続人から除外し、相続税額を計算することが認められています。養子が全く財産を取得していないなど、明らかに相続税節税を目的とした養子縁組だと気づかれないよう注意が必要でしょう。
まとめ
養子縁組によって節税自体は可能ですが、法定相続人になれる人数が限定されている上に、場合によっては相続終了後に離縁の手続きが必要になるなど、多少の手間がかかることは否定できません。
それでも、相続対策として養子縁組を検討している方は、養子縁組届を提出する前に相続に詳しい弁護士にご相談ください。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。