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付言事項とは

遺言書には、法的拘束力を持つ「法定遺言事項」と法的拘束力を持たない「付言事項(ふげんじこう)」の2種類を書きます。遺言書として一般的にイメージする「〇〇という財産を××に相続させる」という遺言は法的効果があるので「法定遺言事項」です。では、法的拘束力のない付言事項は、書く必要があるのかと疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
法定遺言事項だけでは相続人が納得のいかない遺産分けだったとしても、付言事項によって相続争いを未然に防ぎ遺産分割協議をスムーズに進めることがあります。ここでは付言事項と付言事項を書くときに気を付けたいこと、そしてその文例について詳しくご紹介します。
 

付言事項は遺言書の中で唯一自由な思いを伝えられる

遺言書に記述する付言事項は、相続人に対するメッセージとして遺言者の思いを伝えるものです。法的拘束力がないので、自由な発想で記述できます。法的効果の有無をはっきりと区別するため、法定遺言事項を記述した後に付言事項を書くのが一般的です。
ただ、何でも好きなことを書いていいわけではなく、どのような思いでその遺産分けを決めたのか、相続人にどのような思いを伝えたいのかを整理して書く必要があります。
例えば、夫と妻、子2人がいる4人家族で、夫が遺言書を作成した場合、「妻に全財産を相続させる」という遺言書だった場合、子2人は当然納得がいきません。子2人の遺留分も侵害しています。
なぜそのような遺産分けを指定したのか、その理由を付言事項で書くと読み上げられた遺言を聞いたほかの相続人が「その理由なら仕方がない」と納得し、相続争いを防ぐこともあるのです。
 

ネガティブなことは書かないこと

付言事項は、自由に記述できますが、何でも好きなことを書くことはあまりおすすめしません。
例えば愚痴や悪口などネガティブな内容は、相続人の心にしこりを残します。「長男は大学を中退して働かなかった時期があり、将来がとても心配だった」とか「妻に離婚を申し出られたときは悲しかった」など、伝えたいことはあるかもしれませんが、相続人は故人に反論できません。「こんなことを考えていたのか」と、相続人にとっては後味の悪い遺言書になります。それが原因で相続争いのきっかけになったり、家族の仲が悪くなったりする可能性もあります。
相続争いを避けるための遺言書がきっかけで相続争いが起きてしまうのは、本意ではないはずです。スムーズな相続を進めるため、家族仲を悪くさせないためにもネガティブな内容は避けるべきでしょう。
 

付言事項の文例

付言事項の内容は人それぞれですが、主に①自分の思いや感謝の気持ち②葬儀・納骨に関する希望③遺産分けの理由について記述することが多いです。それぞれの文例をご紹介するので参考にしてみてください。
 

①自分の思いや感謝の気持ち

「遺言者である私、〇×〇×は下記に今の心情を残します。
妻〇〇と出会い、結婚して子ども2人に恵まれてからあっという間に時が過ぎていきました。仕事で疲れていても妻のあたたかい手料理で元気が出たし、子どもたちの笑顔にパワーをもらえていました。本当に幸せな人生でした。
遺言書を残すのはまだ早いと思うかもしれませんが、心身が元気な今のうちが遺言書を書くベストなタイミングだと思い、作成しました。この遺言書が相続の際に役に立てればこれ以上うれしいことはありません。今までありがとう。」
 

②葬儀・納骨に関する希望

「遺言者である私、〇×〇×の葬儀に関する希望をここに記します。
葬儀の方法は、告別式ではなく家族葬を希望します。私にとって何よりの生きがいだった家族に見送られる形で旅立ちたいからです。なお、棺には大好きな日本酒と、妻と海外旅行の際に現地で購入したペアウォッチを忘れずに入れてください。
併せて、納骨についての希望もここに記述します。火葬が終わった後は、×〇県〇市の〇〇〇寺にある実家の墓に納骨してください。」
 

③遺産分けの理由

「この遺言を聞いたほとんどの人は驚き、戸惑っているかもしれません。遺言者である私〇×〇×がこのような遺産分けをした理由をここに記したいと思います。
まず、長女〇〇は医学部に進学し、医者として現場で働いていることを大変誇りに思います。その反面、学費の工面には苦労させられました。一方、長男〇〇は大学を1年で中退した後、私の事業を引き継ぎ、今では社長としてその経営手腕を発揮しています。
長女にはたくさんの教育費を投資してきました。一方、会社の跡取りをはじめは嫌がっていた長男が会社を引っ張っていくことを決意し、誰よりも成果を残していることは心から嬉しく思います。長男には〇〇家の事業拡大を進めることで、妻の生活基盤を支えてほしい。〇〇家の発展に貢献してほしい。そうした思いを込めて長男に多くの遺産を相続させたいと考えました。
どうか私の意図を組んで、妻と長女の理解を得られるよう、お願いしたい次第です。仕事で多忙だった私を支えてきた妻、医者として立派に働く長女、跡取り息子として事業を引き継いでくれた長男には本当に感謝しています。ありがとう。」
他には、ペットに関すること、生前贈与や寄付先の指定など、付言事項に記載できることはたくさんあります。「こんな話を書いてもいいのかどうか」といった詳しい内容を知りたい方は相続や遺言の専門家に問い合わせることをおすすめします。
 

付言事項について詳しくは弁護士にご相談を

遺言書の付言事項は、大切な人を亡くした相続人の気持ちを和らげることができますが、内容次第では相続争いの引き金にもなりえます。法的拘束力はないとはいえ、付言事項は良くも悪くも、相続人の心理的に大きな変化をもたらすことが多いのです。
自分が書きたいと思っている内容が付言事項としてふさわしいかどうか知りたい方は、相続問題に詳しい弁護士にご相談ください。相続争いにならず、尚且つ遺言者や相続人にとっても納得のいく遺言書の作成に協力させていただきます。お気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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