相続放棄じゃない「相続分の譲渡」とは | 神戸相続弁護士 福田法律事務所

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相続放棄じゃない「相続分の譲渡」とは

本記事では、相続分の譲渡が意味すること、相続分の譲渡をするメリットとデメリットなどを解説します。

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡とは、相続人が自己の有する相続分を、他の相続人または第三者に譲り渡すことをいいます。

ここでいう「相続分」は、個々の具体的な財産を指すものではなく、遺産全体に占める包括的持分のことです。2分の1、3分の1といった「法定相続分」そのものを譲渡するイメージです。

たとえば夫婦のうち片方が亡くなり、子どもが3人いる場合、残された配偶者の法定相続分は2分の1、子ども3人の法定相続分はそれぞれ6分の1です。

ここで配偶者から子どものうちの1人に、相続分を譲渡します。

すると、配偶者の相続分はなくなり、譲渡を受けた子どもの相続分は2分の1+6分の1=6分の4の相続分をもつことになります。

「譲渡」の対価は、有償であることも、無償であることもあります。また「譲渡」は、他の相続人に限らず第三者に対してもできます。

相続分の譲渡と相続放棄の違い

相続財産があり、相続人として法定相続分を有してはいるが、財産を取得したくないと思う人がまず考えるのは、相続放棄だと思います。

ただ、相続分の譲渡は、相続放棄とは異なる効果をもたらします。

相続放棄には3か月という期間制限がありますが、相続分の譲渡にはこのような制限はなく、遺産分割が終了するまでいつでも可能です。

また、相続放棄をすると相続開始時にさかのぼって相続人でなかったことになるので、他の相続人の法定相続分に影響します。

相続分の譲渡の場合は、相続放棄のように他の相続人の法定相続分に影響しません。

相続分の譲渡を選択するメリット

特定の相続人だけの取得額を増やすことができる

おそらく、これが相続分の譲渡が利用される最も多い動機だと思われます。

自分は相続財産はいらないが、代わりに特定の相続人には多めに相続してもらいたいと考えるケースです。

相続放棄をしてしまうと、特定の相続人だけの持分を増やすことはできず、他の相続人の持分まで増やすことになります。

たとえば、相続人4人が各4分の1の相続分を有するとして、1人の相続人が相続放棄をします。

すると残りの3人の持分が各3分の1ずつになるだけで、うち2人の持分を4分の1のまま、1人の持分を2分の1に増やすということができません。

多く取得してほしい相続人が決まっている場合には、相続分の譲渡が有効といえます。 

相続争いから簡単に離脱できる

たとえば、関係性のよくない他の相続人と揉めそうな雰囲気がある場合、相続分の譲渡によって相続争いから離脱することができます。

これは相続放棄でも同じですが、相続放棄は家庭裁判所に対する申述が必要で、戸籍をそろえたり申立書を作成する手間がかかります。

これに対して、相続分の譲渡は家庭裁判所に対する申述が不要ですし、相続放棄の期間を過ぎても可能なので、簡単に相続争いから離脱できます。

遺産分割協議の参加者を減らすことができる

相続人全員が合意するまで、基本的には遺産分割協議は終わりません。つまり、協議が難航すればするほど、財産をもらえるまで時間がかかることになります。

たとえ他の相続人より分け前が少なくなっても、早めに現金が得られたらそれでよいと考えている相続人もいらっしゃるでしょう。

そのような方は、別の相続人の方にご自身の相続分を有償で譲渡すれば、分割協議が整う前に現金を受け取ることができます。

相続分の譲渡は、遺産分割協議への参加者を減らし、話し合いを進めやすくする一面があります。

相続分の譲渡のデメリット

部外者を遺産分割協議に引き込む危険がある

既に述べたとおり、相続分の譲渡の相手は相続人とは限らず、赤の他人である第三者にも譲渡できます。

第三者に相続分を譲渡した場合、遺産分割協議に参加するのも、家庭裁判所の遺産分割調停・審判の当事者になるのも、譲渡を受けた第三者になります。

相続人以外の第三者の登場は、場合によっては遺産分割の話し合いを困難にする危険性があります。

相続分の取戻し(民法第905条)に注意

民法は、相続分が第三者に譲渡された場合、他の共同相続人はその相続分を取り戻すことができる制度を設けています。これを相続分の取戻しといいます。

重要な相続財産が他人に渡るのを防いだり、他人が介在することで遺産分割協議が混乱することを防いだりする機会を、他の相続人に与えるための制度です。

なお、取り戻すためには、相続分に相当する対価を支払わなければなりません。

第905条(相続分の取戻権)

共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

譲受人の承諾は必要なく、一方的な意思表示により、譲受人は当然に相続分を喪失することになります。
したがって、せっかく相続分の譲渡をしても、他の相続人にこれを取り戻される可能性があることに注意です。

債権者からの請求を受ける可能性がある

相続分の譲渡がされたとき、譲り受ける側は、相続財産(プラスの財産)だけでなく相続債務(マイナスの財産)も譲り受けることになります。

このとき相続分を譲渡した相続人が相続債務についての責任を免れるのかは、民法上は明文がなく、学説も分かれているようです。

相続債務の債権者は、相続分譲渡の事実を知る方法がありません。

したがって、相続分の譲渡をした相続人は、相続債務の支払については責任を免れることができないと考えるのが(相続債務に関する最高裁の判例から考えて)自然のように思えます。

この点は、相続分の譲渡を相続放棄と同じような感覚でいると注意が必要です。

相続分の譲渡の方法

相続分譲渡契約書(譲渡証書)の作成

相続分の譲渡は、必ず遺産分割が終了する前に行なわなければなりません。

しかし、その実行方法に特別な要件や法定の方法・形式があるわけではありません。

とは言え、重要な権利義務の移動ですから、後々のトラブルを防止するために「相続分譲渡契約書」または「相続分譲渡証書」を作成して、譲渡人・譲受人が署名及び実印押印をした上で、印鑑証明書とともに保管しておくべきだと考えます。

相続分譲渡通知書の発送

他の相続人が相続放棄をしているかどうかは家庭裁判所で確認できますが、相続分の譲渡をしているかどうかは調べる方法がありません。

したがって、相続分の譲渡をした相続人は、他の相続人に対して相続分の譲渡を通知することが望ましいと言えるでしょう(義務ではありません)。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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