相続させたくない相続人がいる時の対処法
目次
1 はじめに
被相続人が亡くなったときにもめる原因のひとつとして、相続人のうちの誰かに相続をさせたくない、というものがあります。
被相続人の生前の介護に協力しなかった相続人や、被相続人に暴力をふるっていた相続人、 何十年も前に家を飛び出してお葬式だけ姿を現した相続人など、相続財産を渡すと他の相続人から不満が出るような相続人を持つようなケースが多いように感じます。
ほかにも、いろいろな理由で特定の相続人に相続をさせたくないという意向をもっている方もいるでしょう。
そこで,特定の相続人に相続財産を渡さないということはできるのかについて解説します。
2 相続人と相続分
相続人の範囲と相続分は,民法で決められています。
その概要は以下のとおりです。
- (1)配偶者と子供が相続人の場合
- 配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2
- (2)配偶者と直系尊属(※ 被相続人の親など)が相続人である場合
- 配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
- (3)配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
- 配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4
(1)から(3)は適用の順位なので、(1)の相続人がいる場合は(2)の適用はありません。また(2)の相続人がいる場合は(3)の適用はありません。
(1)から(3)まで、配偶者が常に相続人として挙げられていることがわかるように、配偶者は常に相続人になります。
なお、子、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、その者たちの中で均等に分けます。
3 相続させたくないと思ったときに、まず考えるべきこと
財産を残したくない相続人は誰か?
まず、相続財産を残したくない相続人は誰でしょうか。兄弟姉妹であれば話は簡単で、その兄弟姉妹に財産が渡らないような遺言を書けばよいのです。
なぜなら、兄弟姉妹には後述する遺留分がないので、遺言を作成すれば兄弟に財産が残ることはありません。
逆に、財産を残したくないのが配偶者であれば、事前に相当対策をとっていなければ難しいでしょう。
先に述べたように配偶者は常に第1順位の相続人であり、法定相続分は最低でも2分の1はあるからです。また、兄弟姉妹と異なり、配偶者は遺留分を有します。
このように、相続させたくない相続人が自分にとって誰にあたるかによって、対処法は大きく変わってきます。
相続させたくない、とは一切残したくないのか?他の相続人と比べて少なければよいのか?
感情的な問題から、ある相続人には一銭も渡したくないと考える場合もあると思います。
ただ、兄弟姉妹以外の相続人に対して、全く財産を残さないで済ませることは現実的に難しい場合が多いです。
不可能とまでは言わなくとも、それを実現するためには相当な準備をしたうえで、相続開始後に紛争になる覚悟をしなければなりません。
それは、(相続させたくない相続人以外の)遺産を受け取ってほしいと思っている相続人を、相続紛争に巻き込んで、苦労をさせることになる選択かもしれません。
相続させたくないという今の気持ちをとことん突き詰めると、数ある選択肢のうち、どこからどこまでが許容範囲になってくるでしょうか。
本当に1円でも渡したくないのか、他の相続人より少なければよいのか、法定相続分より減ればいいのか、あるいは自宅や先祖代々の土地など、思い入れのある具体的な財産さえ渡さなければいいのか。
具体的に考える前に、自分でどこまでが許容範囲なのかを一度整理することをお勧めします。
4 遺言で対応する方法
相続させたくない相続人に相続財産を与えない方法としてオーソドックスな方法は、遺言を作成し、遺贈や相続分の指定をすることです。
遺贈
遺贈とは、遺言で財産を特定の者(相続人とは限らない)に贈与することです。遺言の内容に遺贈を入れることで、他の相続人や他人に対して相続財産を贈与することができます。
他の相続人や第三者に具体的な財産を贈与していけば、相続させたくない相続人に残されるものがなくなります。
ある相続人に対して相続させたくないのが、自宅など特定の財産である場合などには特に有効です。
相続分の指定
また、遺言で相続財産を承継させたくない相続人について、相続分を指定することも考えられます。
相続分を本来の法定相続分より少なく指定すれば、当該相続人は基本的にその割合でしか相続できないため、相続させたくない相続人が受け取る遺産を減らすことができます。
相続人の廃除
もし、相続させたくない相続人がいる理由が以下のいずれかにあたれば、相続人の廃除ができます。
相続人の廃除とは,被相続人の意思により,家庭裁判所への請求または遺言による意思表示による方法で相続人の相続権を剥奪することです。
- ①被相続人に対する虐待
- ②被相続人に対する重大な侮辱
- ③推定相続人の著しい非行
この場合、遺留分も完全に否定されます。
遺留分の問題
兄弟姉妹以外の法定相続人は、他の贈与や遺言の内容にかかわらず相続財産の一定割合を取得しうるという権利(遺留分)が認められています。
そのため、遺贈や相続分の指定により、相続させたくない(兄弟姉妹以外の)相続人に何も財産を残さなければ、この相続人の遺留分を侵害することになります。
このとき相続できなかった相続人は、「遺留分侵害額請求」を行使するかもしれません。
遺留分侵害額請求の相手方は、財産を受け取った側になりますから、ほかの相続人が遺留分に相当する金銭を支払わなければならないことになります。
相続させたくない相続人に全く財産を渡さないのではなく、遺留分相当額を下回らないだけの財産を残せば、この問題はなくなります。
5 生前に対処する方法
生前贈与
相続させたくない相続人がいる場合、相続財産となる財産を事前に減らしておくことが考えられます。
最も簡単な方法は、事前に他の相続人(あるいはその配偶者・子供)に、生前贈与しておく方法です。
特に、生命保険を使ったスキームがよく使われます。
例えば定期預金を解約し、その金額で一時払いの生命保険に加入します。
このとき本人を契約者、被保険者、保険金受取人を(相続させたくない相続人以外の)相続人にします。
相続開始時には死亡保険金が保険金受取人に入りますが、これは相続財産とはならないため、結果的に定期預金分だけ相続財産が減ることになります。
遺留分の放棄
遺留分の問題については、相続させたくない相続人に遺留分を放棄させる方法もあります。
相続させたくない相続人に、家庭裁判所で遺留分放棄の許可を申し立てをしてもらいます。
この方法は、相続させたくない相続人本人が自発的にやる必要があることから、あまり利用されていません。
また、相続放棄とは異なり放棄するのは遺留分だけなので、ほかの相続対策とセットでなければほとんど効果はありません。
6 相続開始後の対処
相続人同士で話をして全員が納得すれば、法律の規定にとらわれずに遺産分割をすることができます。
相続をさせたくない相続人自身も、自分が相続できないことに納得すれば、その内容で合意すればよいでしょう。
話がまとまれば、相続をさせたくない相続人に相続放棄の手続をしてもらうという方法も良いかもしれません。
7 まとめ
相続をさせたくない相続人がいるときでも、全く相続させずに済ませることはハードルが高いです。
そのためには生前対策とともに、遺言を作成することをお勧めします。
複雑な問題もありますので、まずは一度弁護士に相談してください。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。