調停の相手が海外にいる場合の対処方法は?
相続が起こったとき、相続人の一部の人が海外にいるケースがあります。 このように他の相続人が海外にいる場合、遺産分割調停はどのようにして進めたら良いのでしょうか?
今回は、遺産トラブルが起こった場合で調停の相手が海外にいるケースでの対処方法をご説明します。
※以下では、相続人全員が日本国籍を有することを前提にします。
目次
遺産分割調停は日本の裁判所に申立できるか?
調停は「相手方」の住所地に申し立てるのが原則
相続が始まると、まずは相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、遺産分割協議を成立させるためには、法定相続人全員の合意が必要です。ひとりでも反対する人がいると、協議によって遺産分割を成立させることができません。
このような場合には、遺産分割調停を申し立てる必要があります。
遺産分割調停を申し立てる相続人を「申立人」といい、それ以外の相続人を「相手方」といいますが、調停は原則として相手方の住所地の管轄の家庭裁判所に申し立てます。
対立している相続人が多数いる場合には、そのうち1人の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に調停を申し立てます。
そのため、相続人のうちに海外在住の人がいたとしても、相手方となる相続人の中に1人でも日本在住の相続人がいれば、その人の住所地を管轄する家庭裁判所において遺産分割調停ができます。
住所地は何で判断する?
また、申立人や相手方の住所地は、原則として住民票を基準に判断します。
そのため、海外に住んでいる相手方でも住民票を日本国内においていれば、日本の家庭裁判所で調停を行うことができます。
もっとも、日本で遺産分割調停を申し立てることができたとしても、相手方が家庭裁判所に出頭しないと具体的な話を進めることができません。
なぜなら、遺産分割調停は、家庭裁判所に当事者が出頭して遺産分割の方法を話しあう手続であるので、当事者全員が出頭しない限り話し合いを前に進めることができないからです。
そうなると結局、相続人の一人が海外に居住している場合には、日本の家庭裁判所に出頭してもらうことが難いケースが多くなってしまいます。
相手方が海外にいる場合の対処方法
そこで、調停の相手が海外にいる場合、どうやって相手に遺産分割調停に参加してもらえば良いのかが問題になります。
①日本で代理人を立ててもらう
遺産分割調停では、だいたい月に1回程度調停期日が開催されます。海外に住んでいる人からすれば、毎回出頭するというのは相当なハードルがあります。
そこで、このような場合には、日本で代理人弁護士を立ててもらうことを検討してもらいましょう。
代理人弁護士がつけば、遺産分割調停は、当事者の出頭に代えて弁護士の出頭のみで進めることができます(もちろん、当事者と代理人が一緒に出頭することもできます。)。
そこで、相手と連絡がつく場合には、相手に日本の弁護士に依頼をしてもらい、その弁護士に調停で話を進めるという方法をとることができます。
弁護士は相手から委任を受けているので、遺産分割調停を成立させることもできますし、重要な期日のみ相手本人に日本に来てもらって家庭裁判所に出頭してもらうことも可能です。
また、遺産分割調停が不成立になると遺産分割審判に移行することになりますが、そうなったとしても、相手に弁護士が就いていれば、その弁護士が引き続き相手の代理人として遺産分割審判の手続きを進めることもできます。
②相手方の出頭がないまま調停・審判を進める
相続人の一人が海外居住者で国内に住民票がなく、また日本で代理人を立てることもしない場合、遺産分割を進めることはできないのでしょうか。
ここから先は個別の事情によるところが大きいですが、おそらくその海外在住者は出頭しないので遺産分割調停はすぐに不成立になり、審判移行します。
そして審判は、海外在住の相続人の主張を全く聞かないまま出されるわけですので、実情に応じた柔軟な判断内容は期待できず、どちらかというと無難で保守的な内容にならざるを得ないと思います。
また、審判は全相続人にその内容を「相当と認める方法による告知」しなければ効力が生じません。
したがって海外在住の相続人に何とかして審判書を受け取ってもらう必要があります。
裁判所から在外日本領事館を通じて、あるいは外国の当局を通じて、海外在住の相続人に審判書を送付するのですが、これが3~6か月かかるのは普通で、不成功に終わることもしばしばです。
最後は公示送達という方法もありますが、とにかく相当な時間がかかります。
そのような不利益を覚悟の上であれば、相手方の出頭が期待せず調停・審判を進めるやり方もありえます。
逆に自分が海外にいたら?
以上のことは、自分が海外に居住している場合にも当てはまります。
日本の家庭裁判所で遺産分割調停が行われるなら、日本で良い弁護士を見つければ、確実に自分の意思を裁判所や相手方に伝えてもらうことができます。
今、遺産分割調停の相手が海外に在住しているのでどのようにすればよいのかわからないとか、自分が海外に在住していて今後の遺産分割の進め方について困っているといった場合には、まずは一度、遺産問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。