



相続放棄とは、「本来なら被相続人から受け継ぐ権利・義務の全てを放棄する」手続きです。一般的には、相続財産に借金や負債が含まれている場合に選択されます。「親の借金を引き継ぎたくないから」という理由で、相続放棄を選択される方は少なくありません。しかし、相続放棄にはデメリットも存在します。そこで、相続放棄におけるメリットとデメリットを整理してみましょう。
目次
はじめに述べたように、相続放棄は「借金、負債」を放棄できるというメリットがあります。もう少し具体的にいうと、下記2点がメリットといえるでしょう。
マイナスの財産には、一般的な金融機関からの融資のほかに以下のようなものが含まれます。
「住宅ローンの残高」
「税金など(公租公課)」
「滞納している家賃」
「不法行為に対する損害賠償金」
「保証人としての地位」
このように、いわゆる単純な借金だけが対象ではないことを認識しておきましょう。
相続放棄は「相続人としての地位を完全に放棄する」ことです。これは「はじめから相続人ではなかった」ときと同じ状態になります。そのため、相続財産に関する相続人同士の揉め事・争いから離れることができ、わずらわしい話し合いからも解放されるわけです。
例え少しばかりの財産があったとしても、「揉め事に関わりたくない」という理由で相続放棄を選択するケースもあります。借金の問題や親族間の争いは、想像以上に精神的な負担になりますからね。相続放棄のメリットは、「精神的な負担からの解放」と考えても良いのかもしれません。
次に、デメリットについて解説します。相続放棄のデメリットは、主に以下3つに集約されるでしょう。
前述したとおり、相続放棄は「はじめから相続人ではなかった」状態と同じです。そのため、わずかなプラス分の財産も引き継ぐことができません。また、相続人の所有物を勝手に処分・持ち出すことも不可能です。親(被相続人)と同居している場合は、その家から退去しなければならない可能性も考えられます。
ちなみに、相続財産の金額自体が大きい場合で、全体としてプラスになるのかマイナスになるのかわからない場合は「限定承認」という手続きを選択することもあります。限定承認は「相続財産がマイナスにならない範囲で引き継ぐ」手続きです。ただし、これには詳細な財産調査が必要で、専門家への依頼が必須となるでしょう。
相続放棄は、裁判所に申し立て、受理されることで成立します。一旦受理されると、原則として「撤回」は不可能です。また、相続放棄を選択するかどうか考える期間内(相続が開始されてから3ヶ月の”熟慮期間”)であっても同じです。これは、民法第919条1項に記載されています。
“第919条 (相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1.相続の承認及び放棄は、第915条第一項の期間内でも、撤回することができない。”
“第915条 (相続の承認又は放棄をすべき期間)
1.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。”
ただし、法律上は家庭裁判所に対し、相続放棄の撤回を申し立てが可能なケースもあります。それは以下のような場合です。
・詐欺または脅迫による場合
・未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄申述をした場合
・後見監督人がある場合、被後見人もしくは後見人がその同意を得ないで相続放棄申述をした場合
・成年被後見人本人が相続放棄申述をした場合
・被補佐人が補佐人の同意を得ないで相続放棄申述した場合
いずれもやや特殊なケースであり、通常は「一度選択したら撤回できない」と考えておくべきといえるでしょう。
ある人が相続放棄を選択したからといって、相続財産が消失するわけではありません。相続順位に従って「別の相続人」へと移っていくのです。相続順位は1位が「子」、2位が「両親・祖父母」、3位が「兄弟姉妹」という具合に決められています。1位のAさんが親の借金を相続放棄すると、2位の祖父母へ相続が回っていき、祖父母も放棄すると伯父や叔母へ…という風に借金が親族内を巡ってしまうのです。
このように相続放棄は「借金やトラブルから解放される」とともに、「新たな火種を親族内にまき散らす」可能性も孕んでいます。親族内でトラブルを発生させないためにも、慎重に選択していきましょう。ただし、相続放棄の選択は「相続開始から3か月以内」と期限が決められています。また、弁護士への相談は早ければ早いほど、後々の手続きがスムーズになります。期間内に最適な結論を出すためにも、早めの相談を心がけてみてはいかがでしょうか。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。