
【相続で親の介護をした人としない兄弟とのトラブル】親の介護がからむ遺産分割の問題点
親の相続と介護でトラブルを抱えていませんか。実は、親の介護をめぐる相続問題は非常に複雑で感情的な問題に発展しやすいものです。なぜなら、介護の負担は金銭だけでなく、時間や精神的な疲労など目に見えないコストも大きいからです。
介護に尽力した人が相続で報われないケースは少なくありません。この記事では介護と相続の関係性や、相続人の不満と寄与分が認められる条件を詳しく解説します。結論として、介護と相続のトラブルを未然に防ぐためには、生前からの準備と透明性の確保が不可欠です。この記事を読めば、親の介護がからむ遺産分割の問題に備える大切さが分かります。
目次
相続と親の介護:介護の負担と遺産分割の難しさ
遺産分割は、亡くなった時に残された財産を、相続人の間で協議により分割するのが基本です。それだけなら難しくないように思えますが、これを一気に複雑にするのが親の介護の問題です。親が高齢になり介護が必要になったとき、相続人が介護の負担を均等にしていて、兄弟間になんの不満もないケースというのは実は少ないと思います。どうしても、特定の兄弟に介護の負担が偏ることが多いでしょう。当事務所の経験から言っても、このような介護を受けていた親の相続でもめることが実はとても多いのです。なぜ、親の介護がからむと問題が難しくなるのか、その背景を考えてみたいと思います。
親の介護は扶養者間の扶養義務に該当する
親族間には、互いに扶養する義務が民法で定められています。この扶養義務には、生活費や医療費などの経済的な援助だけでなく、身体的・精神的な世話や看護も含まれます。「介護をしたから相続分が増える」という特別な理由にはならないのが現状です。ただし、介護による貢献が相続において評価されるケースもあります。それが後述する「寄与分」という制度です。寄与分が認められるには、ハードルが高い傾向にあります。結果として、親の介護が相続分に直接的な影響を及ぼすことは少なく、生前から透明性のある財産管理や家族間での話し合いが重要です。
参考:e-Gov法令検索「民法」(第877条第1項)
親の介護で兄弟は相続でもめやすい
相続と介護の問題は、兄弟間の深刻なトラブルに発展するケースが少なくありません。根本には、法定相続分と実際の介護負担のバランスがあります。親の介護を一手に引き受けた相続人が、何も貢献していない兄弟と同等の相続分しか得られないという状況は、多くの人にとって不公平に感じられるでしょう。例えば、長男が10年間親の介護に専念し、自身のキャリアや家庭生活を犠牲にしたとしても、遠方に住み一度も介護しなかった兄弟と相続分は同じです。「親の介護をしない兄弟も平等に相続できるのか」という疑問を生み、遺産分割協議が紛糾する原因となります。介護の労力や時間、精神的負担を金銭的に評価することは困難であり、相続人同士の認識の差がさらに問題を複雑化させるのです。下記で具体的な事例を見ていきましょう。
相続人の不満【介護をした人】
亡くなって初めて口出ししてくるようになる
同居しながら介護をしていた相続人は、ご飯を用意したり、トイレやお風呂を介助したり、病院に連れて行ったりと、毎日毎日忙しい中親のために尽くしてきました。そして、その負担は何も相続人だけではなく、程度の差はあれ相続人の配偶者や子供も一緒に負っていたのです。その間、他の兄弟はというと、たまには親のもとに顔を出すことはあっても、一緒に住んでいない分どうしても日常のこまごました介護を負担することはできません。また、親に何を食べさせるか、どこに連れ出すか、どこの病院でどんな治療を受けさせるかといったことについて、普段の生活を見ていない分他の兄弟が言えることは少なく、特に口を出してくることはありません。これを介護している相続人側から見ると、他の兄弟は介護に関心がなく丸投げしているように見えるのです。しかし、相続が開始したあとは、親のお金をどういう介護に使っていたかについて、他の兄弟たちが根ほり葉ほり質問してくるようになります。たとえその質問に悪意がなく、単に確認してくるだけであったとしても、です。生前介護をしていた相続人から見れば、生きている間介護を丸投げしていた兄弟たちが、亡くなった途端に介護のこと(特に介護のお金の使途)をきいてくるようになるわけですから、他の兄弟は介護の苦労は全く共有せずに、親のお金にだけ関心があるように見えてしまうのです。
目に見えないコストが発生している
親の介護をしている相続人は、日々細々と親のための支出をしています。それは日用品であったり交通費であったりするわけですが、それを全部親がきっちり支払っていれば問題は生じません。しかし親と同居していれば、親の分だけきれいに切り分けていちいち集計することは現実的には不可能ですので、同居している相続人は親の生活費の一部を負担しているのが実態です。これは一つ一つはごく少額でも、それが毎日、数年にわたって積み重なれば、相当な金額になりえます。そして、そのような介護生活が何年も続いて親が亡くなったとしても、親のために負担した生活費の負担を他の兄弟に求めることは不可能です。なぜなら、それが一体いくらなのか、後になれば確かめようがないからです。そうしたときに、親の介護のために時間だけでなく金銭を費やした相続人の不満が爆発するのです。
介護によって相続分はたいして増えない
被相続人の財産の維持又は増加に貢献した金額のことを「寄与分」といいます。寄与分が認められれば、法定相続分が修正されます。寄与分があるときの相続分は、(遺産の額 − 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分の額で計算するので、ここで公平に負担が調整されるように見えます。しかし、寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人がいる場合の制度です。介護で寄与分が認められるケースとしては、介護によって入院費用や付添看護の費用などを不要にさせた場合や、扶養義務の程度を超えて生活費等の支出を免れさせた場合、被相続人の財産を代わりに管理したり家業をフォローしたりして、支払いを免れさせた場合などがあります。ここでポイントとなるのは、①扶養義務の範囲を超えているかどうか、②被相続人の財産の増加もしくは維持に寄与したかどうかです。介護をしていた場合でも、それが、財産の維持増加についての特別の貢献があったと認められなくては寄与分は認められません。普通に親の面倒を見ていただけでは、扶養義務の範囲を超えた特別の貢献とは判断されないのが普通です。
そうすると、長年にわたって親の介護をしてきた相続人は、相続分においては全く親の面倒を見なかった他の兄弟と全く同じと判断されてしまうのです。
寄与分は他の相続人に認めてもらう必要がある
親を介護した相続人が寄与分を主張する場合、他の相続人にその寄与を認めてもらう必要があります。この主張が受け入れられるかどうかは、他の相続人との話し合いや提出できる証拠次第です。遺産分割協議の場で、介護による貢献度を説明し、他の相続人全員から同意を得ることが求められます。介護内容や期間について、詳細な記録や証拠を提示できるかが重要です。また、話し合いで合意に至った場合には、その内容を遺言書や公正証書などに明記しておくことで、後々のトラブルを防げます。ただし、寄与分の主張が認められない場合や話し合いが難航する場合には、家庭裁判所で調停や審判を行う可能性が出てくるでしょう。
相続人の不満【介護をしない人】
次に、介護をしていなかった相続人から、相続時に不満がでることがあります。
親の状況を教えてもらえなかった
親と同居していない兄弟でも、親が健康にしているのか、ちゃんと生活できているのかなどは、やはり子どもとして心配になるものです。しかし、親と同居している相続人は、日々の世話に忙しく、また普段あまり訪ねてこない他の兄弟への反発からか、他の兄弟に親の現況を知らせないことがあります。実際に、亡くなるまで入院していることを知らなかった、などという話はよく聞きます。極端な事例では、亡くなって四十九日の法要を済ませてから連絡が来たとか、亡くなって数年経ってから偶然亡くなっていたことを知ったというケースもあります。こうなると遺産云々の前に、親の死に目に会わせなかった相続人に対してマイナスの感情を持つことになります。また、親の状況を知らせなかったは何かやましいことをしていたのではないか、その間に何かを画策していたのではないかなどと、疑心暗鬼に陥りやすくなります。
支出が適切に管理されていなかった
親の介護をしている相続人が金銭管理もしていて、親のキャッシュカードを預かって日用品などを購入していたようなケースです。このようなケースで親の遺産が思ったより少なかった場合、他の兄弟は、親の財産が適切に管理されていたのか疑問に思います。つまり、こんなに預金が減っているのは、介護していた相続人が必要のないことに使ったり、自分のために使ったからではないかと考えるのです。そして親の介護をしていた相続人に生前の預金の使途を確認するのですが、なぜ今更そんなことを聞かれないといけないのか、と反発されるだけで、納得のいく回答は返ってきません。しかし、親の財産を管理してきたならば他の兄弟に対する説明責任があるはずですし、にもかかわらず回答できないということは、やはり何かやましいところがあるのではないかと不信感を強めることになります。
一相続人にだけ有利な遺言が出てくる
同居して親の面倒を見てきた相続人に全部、あるいは遺産の大半を与える内容の遺言が残されたケースです。遺言を作成するなら兄弟間でもめないよう、平等に分け与えるのが普通のはずです。それが長年親の面倒を見てきたとはいえ、同居していた相続人だけに極端に手厚く財産を残そうとするでしょうか。そのような極端な遺言は、親が真意で作成するはずはないと考えます。実際にやるかどうかはともかくとして、親と同居して面倒を見ている相続人には、他の兄弟に悟られないよう親をコントロールすることは容易です。ですので、年老いて弱った親に無理やり書かせたのではないかとか、認知症で判断能力が弱った親を騙して作成させたのではないかとか、他の兄弟に遺言の内容に不満があるほどそのような疑いに傾きがちです。
相続で介護の寄与分が認められにくい3つの理由
相続で介護の寄与分が認められにくい理由として、次の3つが挙げられます。・寄与分の要件を満たすのは困難・証拠資料の収集が困難・相続人の間でのトラブルが発生以下で詳しく見ていきましょう。
証拠資料の収集が困難
相続と介護の問題で寄与分を認めてもらうためには、一定の要件を満たす必要があります。「扶養義務を超えた特別な貢献」という条件をクリアするのは、実際には非常に難しいのが現状です。民法上の寄与分が認められるためには、通常の親族間の扶養義務を超える貢献が必要になるからです。単に病院への送迎や日常的な家事の手伝いといった行為は、一般的な親族の扶養範囲内とみなされることが多く、寄与分の対象にはなりにくいでしょう。「週に3回、5年間にわたって病院へ送迎した」という事実だけでは、寄与分が認められないケースが多いのです。一方で「自分の仕事を辞めて24時間体制で重度の認知症の親を介護し、特別養護老人ホームへの入所も考慮したが、親の強い希望があり自宅で看取った」というような場合には、裁判例で寄与分が認められたことがあります。寄与分認定の難しさは、相続人の間の利害関係に起因しています。寄与分が増えれば他の相続人の取り分が減るため、他の相続人が納得できる明確な特別貢献の証明が必要です。
証拠資料の収集が困難
寄与分を認めてもらうには、要件を満たしていることを証明するための資料が必要ですが、用意するのは簡単ではありません。特に、献身的に介護したことを裏付ける証拠が不足していると、他の相続人や裁判所を説得するのが難しくなります。介護中に発生した医療費や生活費の領収書、介護日誌、写真などは重要な証拠です。これらを適切に保管しておけば、後で寄与分を主張する際に役立つ可能性があります。介護サービスの利用記録や医師の診断書なども有効な資料となり得ます。ただし、これらの証拠がそろわない場合には、寄与分が認められない可能性が高いでしょう。
相続人の間でのトラブルが発生
相続人の中で一部の人が寄与分を主張すると、感情的な対立が生じる場合があります。
特に、被相続人への貢献が証拠資料に基づいて数値化されても、その貢献度が他の相続人に十分伝わらないことが原因であるケースが多いのです。
話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所での調停や審判に進むこともあります。手続きには時間がかかり、遺産分割がスムーズに進まない要因となります。
1人の相続人だけが介護に従事している場合には、事前に家族間で相続について話し合うとともに、介護に関する記録を残しておきましょう。
相続で介護をした人が遺産を多く受け取る方法
相続で介護をした人が遺産を多く受け取る主な方法は、次の5つです。
・被相続人に遺言書の執筆を依頼する
・被相続人に生前贈与を依頼する
・負担付死因贈与契約を締結する
・養子縁組を検討する
・通帳や預金の管理を透明化する
以下で詳しく紹介します。
被相続人に遺言書の執筆を依頼する
1つ目は、被相続人に遺言書の執筆を依頼することです。遺言書があれば、遺言の通りに財産が分けられるからです。
ただし、遺言書の作成に当たっては、遺留分を侵害しないよう注意しなければなりません。遺留分とは、相続できる財産を最低限度保障した額をいいます。
遺留分が認められる相続人は、兄弟姉妹以外の相続人です。相続人ごとの遺留分割合は、下表の通りです。
兄弟姉妹に遺留分が認められていない点には注意しましょう。
参考:法務省「法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)」
参考:e-Gov法令検索「民法」(第1042条第1項)
被相続人に生前贈与を依頼する
被相続人に生前贈与を依頼するのも1つの方法です。生前贈与とは、被相続人が生存中に贈与することです。
被相続人の親からすると、介護で世話になっている子どもに確実に財産を渡せるのはメリットといえます。
遺言書のように遺留分の侵害を考慮する必要がありませんが、相続開始前10年以内の相続人への贈与は、遺留分算定の基礎となる金額の対象です。
また、2024年1月から相続開始前7年以内の贈与については、相続税の課税対象になりました。110万円の非課税枠内の贈与でも、相続税課税価格に加算されて相続税の計算が行われるので注意しておきましょう。
負担付死因贈与契約を締結する
負担付死因贈与契約の締結は、相続で介護をした人が遺産を多く受け取れる方法です。死因贈与とは、贈与者と受贈者の合意に基づいた契約で、贈与者が亡くなったときに贈与の効力が生じます。
負担付死因贈与契約の例を挙げると、高齢の親が自宅にいる間に子が介護のために同居してサポートすることを条件として、親の死後に子に贈与するといった内容です。
最高裁判所の判例によると、受贈者がサポートした負担が履行されれば、特段の事情がない限り契約の全てまたは一部を取り消せないとされています。
死因贈与契約では、両者の口頭の合意でも成立しますが、トラブル防止のために死因贈与契約書を公正証書化し、不動産であれば仮登記しておきましょう。
法律の専門家でないと分からない情報も多いので、早めに弁護士への相談をおすすめします。
参考:最高裁判所判例集
参考:e-Gov法令検索「民法」(第554条)
生命保険金の受取人への指定を依頼する
生命保険金の受取人に介護した人を指名することで、遺産を多く受け取る方法があります。
保険金は受取人固有の財産とみなされるため、法定相続人である必要はありません。この方法であれば、介護の負担を考慮した分配が可能です。
ただし、生命保険金は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の計算対象となります。法定相続人が受け取る場合には非課税枠が適用されますが、それ以外の受取人には適用されない点に注意が必要です。
保険金額が相続財産よりも大きい場合には、他の相続人から不満が出る可能性もあります。
「保険金から葬儀費用や介護費用を支払う」といった条件を設け、事前に家族間で合意しておくことがトラブル回避につながります。
養子縁組を検討する
介護している人が法定相続人でない場合、相続権を得る方法として養子縁組があります。
養子縁組すれば、法定相続人でない介護人は、実子と同等の相続権を持つ法定相続人となります。
長男と次男が法定相続人である家庭で、長男の妻が被相続人を介護していた場合、長男の妻を養子縁組することで法定相続人に加えることが可能です。
養子縁組によって、長男の妻も遺産分割に参加できる権利を得られます。
ただし、養子縁組で遺産分割の割合が変わり、他の相続人の取り分が減る可能性があります。養子縁組する際には他の相続人に十分に説明し、納得を得ておきましょう。
通帳や預金の管理を透明化する
介護している人と他の相続人との間でトラブルを防ぐためには、通帳や預金の管理を透明化することです。
介護には予想以上の費用がかかることがあり、他の相続人にその実態が伝わらない場合、介護者が財産を私的に使い込んでいると疑われるケースもあります。
こうした疑念が相続時の争いを招く原因となることがあります。
トラブルを回避するためには、介護費用専用の通帳を作成し、支出内容を明確にすることが効果的です。
レシートや領収書を保管し、金銭の流れを記録しておくことで、介護や生活に必要な出費であったことを他の相続人に説明しやすくなります。
上記の透明性のある管理は、介護を担う人への信頼を高めるだけでなく、相続時のトラブル防止にもつながります。
最後に:相続で親の介護がからむ遺産分割は弁護士に相談しましょう
以上見てきたように、親の介護をする相続人、介護をしない他の相続人、それぞれに不満を抱く心理にはポイントがあります。
このような不幸なすれ違いを避けるためには、相続開始の前から、相手が不満を抱きやすいポイントを理解して、それを意識しながら衝突をさけるよう行動することです。
たとえば、親の介護をする相続人は、なるべく親の健康状態や財産状況を他の兄弟にオープンにしておくなどが考えられます。
逆に介護をしない相続人は、節々で介護に対する感謝の気持ちを形に示すとともに、細かいお金については介護をする相続人に一任するつもりで口出ししないことが考えられます。
介護はときに、壮絶で、お金や労力がかかるものです。それは仕方がありませんが、介護をきっかけとした不幸な相続が少しでも減るために、本記事が少しでも参考になればよいなと思います。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。