夫婦間の不動産贈与の優遇について
不動産の贈与に関して、夫婦間で行う贈与にはいくつか優遇措置があります。具体的な優遇をお伝えると
- 配偶者控除による贈与税の優遇措置
- 相続税の配偶者控除による優遇措置
の、主に2つです。また、2020年4月より施行された配偶者居住権という、配偶者の権利を守る趣旨の制度があり、遺産相続における配偶者へ対する優遇措置は手厚くなっていると言えます。
Q2 配偶者居住権とはどのような権利ですか
- 残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で、一定の要件を充たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が、賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。
- 残された配偶者は、被相続人の遺言や、相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって、配偶者居住権を取得することができます。
- 配偶者居住権は、第三者に譲渡したり、所有者に無断で建物を賃貸したりすることはできませんが、その分、建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権を確保することができるので、遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとして、配偶者が、配偶者居住権を取得することによって、預貯金等のその他の遺産をより多く取得することができるというメリットがあります。
引用元:国税庁
このような配偶者優遇措置を上手く使うことで、贈与税や相続税を少なく抑えることが可能となります。そこで今回は、配偶者優遇措置にはなにがあるのか、夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除について解説します。
目次
不動産贈与に関する配偶者への優遇
国税庁のHPには「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」と言う名目で記載がありますが、こちらから簡単にご紹介します。
概要
婚姻期間が20年以上の夫婦で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するため、『金銭の贈与』が行われた場合に、最高2,000万円まで控除できるという特例です。
以下の3つの要件を満たすことで、この優遇措置を受けることが可能です。
- (1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- (2) 配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
- (3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した 居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
参考:国税庁
贈与税の基礎控除の他に受けられる
贈与税には基礎控除というものがあり、個人から財産をもらったときにかかる税金(暦年課税)は、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかからないという制度があります。
夫婦間の不動産贈与の際、先ほどの2,000万円控除に加え、110万円の控除がプラスされますので、2110万円までなら、贈与税は非課税になります。
適用を受けるための手続
- (1) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
- (2) 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- (3) 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
上記を用意し、国に対して申告することで完了です。金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、上記の書類のほかに、その居住用不動産を評価するための書類が必要です。
相続税における配偶者の税額軽減について
贈与に関することではないのですが、知っておくと便利なのが相続税の『配偶者の税額軽減』です。相続税の基礎控除として『3000万円+相続人の数×600万円』がありますが、実は配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度があります。
- (1) 1億6千万円
- (2) 配偶者の法定相続分相当額
この特例を使うことで、不動産贈与の優遇2000万円〜2110万円などではなく、1億6千万円までは無税で相続することが可能です。配偶者の法定相続分相当額というのは、法定相続分で遺産を分けた際に、遺産額がその範囲内であれば、無税になるという制度です。
法定相続分
- 配偶者と子供が相続人である場合
- 1 配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2
- 配偶者と直系尊属が相続人である場合
- 2 配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
- 3 配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4
参考:国税庁
仮に遺産が1億円合った場合、①であれば、配偶者に相続された5000万円までは無税になります。
配偶者居住権について
本筋ではありませんが簡単に説明すると、一戸建て住宅に暮らしていた夫婦、息子が1人いたとします。(息子は結婚して違う場所に住んでいると仮定)。財産価値は自宅が3000万円、預貯金3000万円とした場合、夫が亡くなると妻と子の相続分は法定相続分に従い2分の1、それぞれ3000万円ずつの相続になります。
自宅を配偶者が相続した場合、預貯金3000万円はすべて息子に渡ります。すると、これでは妻に生活費が全く残らず。逆に自宅を息子に相続させると預貯金は配偶者に渡るものの、(実態として息子が配偶者を追い出すことは考えられないが、)配偶者は住む家がなくなることになります。
こういったケースを打開する方法のひとつが配偶者居住権です。この制度を活用すると、夫を亡くした妻は自宅に住み続ける権利を手に入れ、息子は配偶者居住権の負担のついた自宅の所有権を得られますので、配偶者は住む場所を確保できるという制度です。
詳しくは、相続に詳しい弁護士に相談されるのが良いでしょう。
まとめ
贈与税の基礎控除が最高2,110万円まで非課税になるのであれば、より優遇措置のある相続税に切り替えて考えた方が良いケースもありますが、不動産の相続には不動産取得税や登録免許税などが別途発ししますので、一概に相続への切り替えが良いとは限りません。
また、個別の事情により状況は変化しますので、あなたの場合はどのようするのが最もよい選択肢なのか、弁護士などの専門家に相談しながら進めていただくのが良いかと思います。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。