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相続にかかった経費は相続税の控除対象となるか

相続が発生したとき、実際に相続人が財産を取得するまでの過程で、数々の経費が発生します。葬儀費用もそうですし、準確定申告による所得税、未清算の施設利用料、医療費、固定資産税、負債の返済・・・など様々です。

そこで気になるのは、葬儀費用や遺産の管理費など、相続手続が終了するまでの過程でかかった経費の扱いはどうなるか?ということではないでしょうか。

遺産がある程度あると相続税がかかりますが、相続のためにかかった経費は、遺産から控除して相続税を計算してほしいと考えるのが相続人の心情でしょう。

そこで、相続税の計算の際にどこまでが経費として控除される認められるかを、以下で詳しく解説していきます。

注意点

このページでは、あくまで相続税法において「課税価格」を計算する際に控除できる経費について解説しています。民法の規律に基づき、遺産分割協議をする際や遺留分を計算する際の相続債務・相続費用の対象とは異なりますので、注意が必要です。

1.控除されるのは2種類のみ

課税価格から控除することを「債務控除」といいますが、この債務控除できる項目について、相続税法では次のように定められています(相続税法13条1項)。

①被相続人の債務で相続開始の際に現に存在するもの
②被相続人の葬式費用

この①②にあたるものだけが、債務控除の対象になります。

相続するためにかかる経費はこれだけではないのに、相続税法が認める債務控除の対象は、かなり狭いといっていいでしょう。

たとえば、相続手続は何をするにもまず戸籍が必要ですが、何通もあると結構な手数料を取られます。金融機関の証明書発行料もそうです。他にも相続登記の費用、遺言執行者への報酬支払などもあります。相続開始後に不動産をお金をかけて修繕しなければならないこともあるでしょう。

しかし、これらの経費は被相続人の死亡後にかかるものですし、被相続人本人の債務ではないことから、残念ながら控除の対象にはならないのです。

2種類のさらに例外

このように相続税法が認める債務控除の対象はかなり狭いわけですが、それをさらに狭める規定もあります

非課税財産の取得、維持管理費用

相続税の課税の対象とならない財産(非課税財産)の取得、維持又は管理のために生じた被相続人の債務の金額は、債務控除の対象になりません(相続税法13条3項)

たとえば墓石のような祭祀財産は非課税財産ですが、被相続人が墓石を生前に購入し、代金を支払う前に亡くなった場合、代金債務は債務控除の対象になりません。

相続人でない者が負担した費用

また、相続放棄した人や、相続人ではない人(遺贈や死因贈与によって特定の財産を取得した第三者)が負担した金額は、債務控除の対象となりません。

2.被相続人の債務で相続開始の際に現に存在するもの

相続は、人の死亡によって開始します(民法882条)。つまり、被相続人が死亡した時点で現に存在している被相続人の債務であれば、控除の対象になります。

被相続人が死亡した時点で確実に確定しているとは言えない債務については、債務控除の対象ではありません。

これをまとめると、以下のようになります。

<控除されるもの>

借入金、ローン、立替金

相続開始時に不動産や車などの各種ローン、金融機関や個人からの債務が残っている場合、債務控除の対象となります。

ただし、被相続人が長年返済をしておらず、相続開始時点で消滅時効が完成している債務については債務控除の対象にできないとされています。

相続開始前に、相続人が被相続人に代わって各種の支払を立替えていたというのはよくありますが、この立替金も被相続人の債務の一種ですので債務控除の対象にできます。

公租公課

相続開始時に発生が確定している所得税や住民税、固定資産税、社会保険料などの公租公課は、実際の支払が相続開始後になっても債務控除の対象となります。

逆に、相続開始後に発生が確定した公租公課は、債務控除の対象にはなりません。例えば、固定資産税は1月1日の所有者に発生しますので、12月31日に相続が開始すると、翌年の固定資産税は債務控除の対象とはなりません。

延滞税が発生している場合、被相続人の責めに帰すべき理由で発生していれば控除されます。逆に相続人の責めに帰すべき理由で延滞税が発生した場合は、その延滞税は債務控除の対象となりません。

未払いの医療費・施設利用料

被相続人が病院や介護施設で亡くなった場合、最後の医療費や施設利用料の支払は相続開始後になるのが普通ですが、これは相続開始時に既に発生が確定していますので、債務控除の対象となります。

被相続人が使用していた水道光熱費、通信費、クレジットカード利用料など

これらも相続開始時に既に発生が確定していますので、債務控除の対象となりますが、亡くなった後の水道光熱費や通信費は厳密にいえば対象ではありません。その意味でも、早めの解約手続をお勧めします。

特別寄与料

相続人以外の人が被相続人に無償で労務を提供したことで、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与があった場合、相続人が特別寄与料を払えば債務控除の対象になります。

<控除されないもの>

被相続人が連帯保証人になっていた場合の保証債務

保証債務は、主債務者本人が弁済すれば保証人である被相続人が代わりに弁済する必要がないため、保証債務は相続開始時に確実に存在していた債務とはいえず、原則として債務控除の対象にはなりません。

ただし、相続開始時に既に主債務者本人が弁済不能状態で、保証人である被相続人が弁済後に主債務者本人に求償しても返済される見込みがなかった場合は、債務控除できます。

団体信用保険(団信)付きの住宅ローン

団体信用保険とは、住宅の所有者が負う住宅ローンについて、返済中に所有者に保険事故が発生すると残ローン相当額の保険金がローンの債権者に支払われる保険です。

被相続人が保険事故によって死亡した場合、団体信用保険により保険金が支払われ、確実にローンは完済になりますので、相続開始時に住宅ローンは現に存在しないという扱いになります。

したがってこの場合、相続まで残っていた住宅ローンの残高は債務控除の対象になりません。

被相続人が生前に不当利得返還請求や損害賠償請求を受けていたもの

これについては、少し難しい問題があります。

既に述べた通り、債務控除の対象になるのは相続開始時に現に存在している債務です。現に存在しているとは、確実に発生しており、金額も確定している債務を指します。

不当利得の返還や損害賠償金の支払いを請求されていたというだけでは、相続開始時に債務が確実に発生しているとは言えません。

ただし、生前に裁判を起こされるなど相手の請求の意思が確実であり、かつ被相続人もある限度までは支払義務を認めていたような場合には、その限度では金額が確定しているといえます。

このように相続開始時の現況によって確実と認められる金額の範囲なら債務控除の対象にできますが、そうでない場合は債務控除の対象にできないと考える方がよいと思います。

相続開始後、相続人が負担すべき費用

冒頭でも述べましたが、以下の支出はいずれも被相続人の債務ではなく、相続人の費用から支出されるべきものであるため、債務控除の対象にはなりません。

・相続財産の調査にかかる費用
・相続手続に必要な戸籍取得費用や証明書取得手数料
・相続登記費用
・遺言執行費用
・遺産分割協議や調停などにかかる弁護士費用や訴訟費用
・相続税申告における税理士費用

3.被相続人の葬儀費用

相続税法では、債務控除の対象として「葬儀費用」と規定していますが、実際には葬儀にかかった費用全額が控除されるのではなく、一部の項目に限定されています。

<控除されるもの>

火葬料、埋葬料、納骨費用

斎場や墓苑、お寺に支払う費用です。

通夜・告別式の費用

いわゆる葬儀社に支払う金額です。

お布施、戒名料など、宗教者へ支払うもの

特にお布施や心付けなどは領収書が出ませんが、被相続人の生前の社会的地位や財産からみて相当な範囲なら領収書がなくても認められています。

葬儀の際に施与した金品(心付けなど)

これも、あくまで社会通念上認められる範囲内で控除の対象となります。

通夜や告別式の前後に会食が入ることがありますが、その費用もここに含まれると考えられます。

遺体の捜索費用、運搬料

やや特殊ですが、行方不明者や事故・災害で亡くなった方の捜索費用等も、債務控除の対象になります。

<控除されないもの>

香典返し

葬儀の参列者からいただいた香典は、「香典返し」としてその半額程度の金額のものを渡すとされています。

しかし、香典は法律上は喪主に対する贈与であり、被相続人の財産ではないため、香典返しの費用は債務控除の対象外となります。

仏具など祭祀財産購入時の未払金

既に述べましたが、墓地や仏壇、神棚といった祭祀財産は非課税財産ですので、その支払いにかかる費用は債務控除の対象にはなりません。

初七日や四十九日などの法要

初七日や四十九日は死者を弔う葬儀とは別の法事にあたるため、控除されません。

ただし、最近では初七日を葬儀と一緒に執り行うことが増えたので、その場合は葬儀費用の一部として控除の対象となります。

4.相続税の申告の際は税理士にご相談を

相続税の計算上、被相続人が本来支払うはずだった債務と葬儀費用についてのみ、課税財産から控除できます。ただ、被相続人の債務も葬儀費用も、上記に挙げた出費のほかにさまざまな費用が発生するかもしれません。

「これは債務控除の対象になるのか」と判断がつかないものが出てくる可能性も十分にあります。その場合は、相続に精通している税理士に相談のうえ、申告を進めるとよいでしょう。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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