相続税の申告期限が迫っている
相続税の申告期限は、相続開始から10か月です。
このページでは、遺産分割協議が進まないまま、相続税の申告期限が迫ってきているケースについて解説します。
目次
紛争性のある相続について
相続税の申告が必要な相続の場合、通常は申告期限までに相続人が遺産分割協議を済ませ、相続人全員で相続税の申告・納税をします。
そして、相続人全員分の申告を1人の税理士に依頼することがほとんどです。
しかし、紛争性のある相続案件については、上記の通りいかない場合があります。
相続財産が分からない
他の相続人と対立している場合、そもそもどのような遺産があるのか、こちらが全く把握できないことが考えられます。
例えば、亡くなるまで一人の相続人が被相続人の財産管理を一手に引き受けていて、他の相続人に全く関与させなかった場合、その相続人から遺産の開示がなければ、他の相続人は相続財産が一切分かりません。
添付資料が収集できない
他の相続人の協力がなければ収集できない資料(その相続人自身についての資料などが典型です)があると、相続税の申告に必要な資料をそろえることができません。
同じ税理士に依頼できない
既に述べたとおり、相続税の申告は相続人全員で行うのが原則です。対象となる相続は1つですから、相続人全員が同じ申告内容になるはずだからです。
しかし、相続人間に対立があると、共同で申告することを拒否したくなることもあります。
たとえば、相手が依頼した税理士は信用できるか分からないから信用できる税理士を自分で選んで申告を依頼したい、といった場合です。
また、特定の遺産の評価額で見解の一致をみることができないような場合も、共同で申告できないことになります。
その場合は、別々に税理士に依頼し、相続税を申告することになります。
もちろん、別々に相続税の申告をすると、その申告内容に齟齬が出てくる場合が多いですし、そうなると税務調査が入る確率も上がることになるでしょう。
遺産分割が未了でも相続税申告期限は変わらない
遺産分割協議がまとまっていなくても、申告期限は変わらず相続開始から10か月以内です。 協議未了であるからと言って、税務署は待ってくれません。
しかし、相続人間の関係が複雑であったり、対立がある場合には、その期限内に遺産分割の協議がまとまるとは限りません。
未分割申告
相続税は、まず相続人全員で納める相続税の総額が決まり、その中から実際に各相続人が取得した遺産の額に応じて、それぞれの相続税額を割り振るしくみをとっています。したがって、相続人間で遺産分割協議が終わらないと、本来は各相続人の個別の相続税額は決まりません。
しかし、遺産分割協議が未了でも、それぞれが法定相続分で遺産を取得したと仮定して、いったん各人の相続税額を仮に算出して期限までに申告して、相続税を納めてしまう方法があります。これを未分割申告と言ったりします。
遺産の範囲や評価に争いがある場合は、それぞれの相続人がそれぞれ正しいと思う遺産の範囲・評価をもとに、法定相続分で仮分割した計算をして納税します。
そして、その後3年以内に遺産分割協議が終われば、最終的に各人が得られた実際の遺産額で計算して、相続税申告のやり直し(修正申告・更正の請求)をします。
未分割申告の注意点
申告期限までに遺産分割協議が終わらなければ、キャッシュ面でいくつか不利なことがあります。
①納税資金がない
遺産分割協議が未了の場合、実際に遺産が手元に得られていないことになります。しかし、納税は先にしなければなりません。つまり、遺産の中から相続税を払うということができず、申告期限までに計画的に納税資金を準備しておかなければなりません。
②税法上の特典が使えない
遺産分割が未了のまま申告する場合、配偶者の税額軽減など、有利な税法上の特典が使えません(分割協議終了後に使えるようになる特典もあります)。そのため、本来収めるべき相続税額以上の金額をいったん納めなければならないことになります。
③税理士費用がかさむ可能性がある
遺産分割が終わらない理由が相続人間の対立にある場合、相続税申告の税理士費用がかさむ可能性があります。
先ほど述べたように、遺産分割が終了していれば、相続人全員の相続税申告を1人の税理士に依頼するのが普通です。その場合、税理士費用は相続分に応じて頭割りして負担することで税理士費用を抑えることが可能です。
しかし、相続人間に対立がある場合、対立している相続人はそれぞれ別の税理士に申告を依頼することになりがちです。その場合、税理士費用が余分にかかることになります。
困ったときの仮払い
このように相続税を未分割申告する場合、手元のキャッシュの面で何重にも不利になります。遺産以外から十分なキャッシュを用意できる場合であればともかく、そうでなければ、遺産分割終了前に預貯金の仮払制度を利用することを検討しましょう。
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このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。