相続放棄しても受け取ることができる財産がある?
このページでは、相続放棄をした相続人でも受け取ることができる財産について解説します。
相続放棄をすると、被相続人の債務を引き継ぐことがなくなりますが、他方で被相続人が有していた財産も取得することができなくなります。
しかし、一定の財産に関しては、相続放棄をした相続人でも受け取ることができます。
これらの財産はそもそも遺産と扱われなかったり、相続人が取得することが法令で特別に認められていたりするからですが、相続放棄した以上一切の権利がないと誤解して、受け取らないままの方もいます。
そこで、相続放棄しても受け取ることができる財産について、以下で順番に解説していきます。
目次
相続人の固有の財産となるもの
生命保険(死亡保険金)
死亡保険金は、被保険者である被相続人の死亡を原因として、あらかじめその受取人として指定されている人に対して支払われる保険金です。
普通は被相続人が自分で契約して、被相続人の死亡時すなわち相続開始時に支払われますので、死亡保険金も遺産であるかのように思えます。
しかし、(相続税の税務は別として)相続実務では死亡保険金は保険金受取人固有の権利と扱われますので、保険金受取人となっている相続人は、相続放棄をしたとしても、死亡保険金を受け取ることができます。
ただしこの扱いは、保険金受取人が被相続人以外の者となっている保険金だけです。
死亡保険金は被相続人本人が受け取ることはできませんので、普通は相続人など第三者が保険金受取人に指定されています。それゆえこういう扱いになるのです。
他方、医療保険(がん保険、入院保険など)は被相続人本人が生存中に受け取ることが想定されていますので、保険金受取人も被相続人本人となっていることが普通です。
したがって、医療保険の保険金は遺産になり、相続放棄をした相続人は受け取ることができなくなります。
名義預金その他の名義財産
名義預金とは、預金口座の名義人と実際の預金者が異なる預金のことをいいます。
たとえば、まとまったお金が入った子供が、浪費してしまうからといって親に預けるという話はたまに聞くと思います。親がこれを自分の名前で定期預金した場合、実際の預金者は子供ですので、名義預金になります。
親がその後亡くなったとして、この名義預金は本来親の遺産ではありませんので、子供は相続放棄してもこの定期預金を受け取ることができます。
ただし、お金を預ける際、後日のためにその経緯を証拠に残すことは少ないと思いますので、名義預金であることについて後から証明することは難しいことには注意が必要です。
相続放棄が認められない事態を避けるには、名義預金性の立証によほど自信がない限り、手を付けない方が無難だと思います。
なお、このように本当の所有者が被相続人でないという財産は、名義預金に限りません。これまで相談を受けた中では、自宅マンション、車、株や投資信託(運用を被相続人に任せていた)などがありました。いずれも、その名義財産性の立証が難しいケースでした。
受け取る権利者が法令その他で指定されている財産
未支給年金・死亡一時金
国民年金、厚生年金、遺族年金はいずれも、毎月1日付で生存している受給権者に対して、翌月あるいは翌々月の15日に支払われることになっています。したがって、1日の時点で受給権が発生したが、受取時には亡くなっていたというケースが出ます。このいわば最後の年金が、未支給年金という扱いになります。
受給権者が亡くなった場合、未支給年金については、一定の遺族が受け取ることができます。
これはそれぞれの制度で法令上、受給権を有する遺族が決まっていますので、被相続人の財産ではなく遺族の財産になります。
したがって、未支給年金の受給権を有する遺族が相続放棄をしても、未支給年金を受け取ることができます。
以下に、未支給年金の受給手続のリンクをおいておきます。
国民年金・厚生年金・遺族年金
年金を受けている方が亡くなったとき(日本年金機構)
企業年金
年金を受給している方が亡くなられたとき(企業年金連合会)
死亡退職金
会社員や団体職員が在職中に亡くなった場合、その会社や団体から死亡退職金が支給されることがあります。
これを相続放棄した相続人が受け取ることができるかどうかは、まずその会社や団体における死亡退職金の支給規程の解釈によって決まることになります。
多くの会社・団体の死亡退職金支給規程は、支給の対象を抽象的に「相続人」とするのではなく、「配偶者」や「三親等以内の同居の親族」などと具体的に規定しています。
その場合、死亡退職金は相続放棄しても受け取ることができることが多いです。
葬祭費・埋葬料
あまりきちんと手続きをとる方は少ないのですが、健康保険の加入者が亡くなった場合、葬祭費あるいは埋葬料が支給されます。国民健康保険の場合は葬祭費、協会けんぽの場合は埋葬料と呼んでいますが、5万円程度が支給されます。
この葬祭費・埋葬料は、葬祭の主催者(喪主)に支給されるものですので、必ずしも相続人でなければならないわけではありません。ですので、相続放棄をした相続人であっても、葬祭を主催すれば支給申請することができます。
神戸市国民健康保険の場合
葬祭費の支給申請(神戸市)
ただし、これはあくまで葬儀代を自分で捻出した相続人が相続放棄をするケースの話です。
相続人が喪主となって葬祭を主催しながら、その費用を被相続人の財産の中から支出すると、それ自体が単純承認となり相続放棄ができなくなる可能性がありますので、その点は注意が必要です。
そもそも相続財産ではないもの
遺骨、墳墓、その他の祭祀道具(系譜・祭具)
遺骨、お墓などの墳墓、過去帳などの系譜、仏壇・位牌などの祭具は、相続人による遺産分割の対象となる財産ではなく、慣習によって祭祀承継者に引き継がれるものです。
ですので、相続放棄をした相続人であっても、祭祀を承継する場合には、遺骨やお墓など引き継ぐことができます。
香典
これも、あくまで葬儀代を自分で捻出した相続人に限った話ですが、香典は相続放棄をしても受け取ることができます。
香典は、葬祭の主催者(喪主)に対して支払われるものであり、被相続人が受け取る権利を有する財産ではなく、相続財産とはならないからです。
高額療養費(被相続人が世帯主でない場合)
医療費が世帯所得によって定まる一定額以上になった場合、健康保険から支払った医療費のうちの一部の払戻を受けることができます。これが高額療養費制度です。
この高額療養費の受給権者は世帯主(組合員)ですので、被相続人が世帯主でない場合、被相続人にかかった医療費であっても払戻金は世帯主に受け取る権利があります。
ですので、相続を放棄しても、高額療養費の払戻金を受け取ることがでる場合があります。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。