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土地の時効取得とは何か?成立要件から取得の手順をわかりやすく解説

不動産を相続する時に、自分の土地だと思っていた場所が、実は他人の土地だったということがよくあります。

長く住み続けていると、土地の境界線があいまいになっているケースや、昔の所有者がきちんと登記を行っていなかったケース、全体ではなく土地の一部を使っていたケースなど、さまざまなケースが発生します。

そんな中、相続が行われた時に問題になってくるのが「土地の時効取得」です。

今回は土地の時効取得とは何か・成立要件から取得の手順をどこよりもわかりやすく解説します。

土地の時効取得とは何か?

土地の時効取得とは、本来は登記名義人の土地であっても長期間占有し、要件を満たした場合には占有者の土地になる制度のことです。

簡単にいうと、仮に他人の土地でも長い間使用を継続することで、その土地は自身のものになるということです。

これは民法の他人のものでも一定期間持ち続け、一定の要件を満たすと自分のものになる「時効取得」が根拠になっています。

現在日本には持ち主不明の土地がかなりあるので、土地の時効取得は土地問題の解決策の一つとして考えられます。

占有とは?

占有とは自分が意思を持って、あるものを支配することです。

支配の他にも持つこと、住むこと、利用することも占有していることです。

占有することで生じる権利のことを「占有権」、さらに占有権を持っている人のことを「占有者」といいます。

占有権が生じると現在あるものを現実的に支配している状態を法的に保護してくれることになります。

すると「所有権」「賃借権」などの法律上の根拠などを有しているかいないかは問われません。

極端にいうと、人のものを盗んで持ち続けているだけでも占有権は生じます。

また占有は人から人へ移転させることも可能です。

登記名義人とは?

登記名義人とは、法務局に登記されている登記簿謄本に、不動産の権利者(所有権者)として名前が記載されている人のことです。

一般的には登記名義人は土地の所有者とみなされることが大半です。

ただし登記名義人自体が亡くなっている場合もあります。

主な例では土地が相続財産の場合などです。

そうなると登記簿謄本の登録名義人には所有権が存在しない状態になります。

この場合、土地の所有権は法定相続人が共有している状態になっている可能性があります。

このように土地が相続財産の場合、登記名義人に記載されている人物以外が土地の所有権を持っている場合もあるので注意が必要です。

取得時効とは?

時効取得に似た言葉に「取得時効」があります。

取得時効とは時間が経過したことで、権利が取得できる制度のことです。

時効の中の1つで、時効には「取得時効」と「消滅時効」の2つがあります。

取得時効が成立することで、財産に関する権利を取得できることを時効取得といいます。

なので取得時効の成立が先で、権利を取得できる時効取得が後という関係です。

逆に時間の経過で権利を失う時効のことを消滅時効といいます。

取得時効と消滅時効は時効の裏表の関係です。

また取得時効には時効の成立する期間が異なる「短期取得時効」と「長期取得時効」の2つがあります。

土地の時効取得に関する根拠は?

土地の時効取得に関する根拠は「民法第百六十二条」によります。

そもそも「時効」とは何か?

時効とは、ある事実の状態が一定期間続いたことで、法律上の根拠に関係なく、ある事実の状態に合せる制度のことです。

時効が成立すると、法律上の権利や義務が発生したり、逆に消滅したりします。

民事上の時効は次の2つです。

・取得時効

・消滅時効

また刑事上の時効は次の2つです。

・公訴時効

・刑の時効

土地の時効取得の成立の5要件

時効取得を活用して、土地の権利を取得するには5つの要件を満たす必要があります。

もし条件がそろってないと土地の時効取得はできません。

こちらでは土地の時効取得の成立の5要件について解説します。

所有の意思

所有の意思とは自分のものであると明確な意思を持っていることです。

所有の意思がある占有を「自主占有」、所有の意思がない占有を「他主占有」といいます。

ただし所有の意思は占有者が勝手に自分のものであると思い込んでも認められません。

所有の意思を認めてもらうには客観的な事実や証拠が必要になります。

具体的に土地の場合であれば、土地の売買契約書を持っていたり、登記簿謄本に登記されていたり、固定資産税を支払っている銀行口座の履歴があったりなどです。

ちなみに不動産に対し賃貸借契約に基づいた占有であれば所有の意思は成立しません。

このように他人のものを借りて占有している状態を「他主占有」といいます。

所有の意思に関する根拠は「民法第百八十六条1項」によります。

平穏かつ公然の占有

平穏かつ公然の占有とは、暴行や脅迫といったことがなく、周囲に対して隠したりせずに占有していることです。

平穏は穏やかな状態から占有が開始されたということで、土地の占有が無理やり、強引に他人の土地を奪った占有ではないという状態のことです。

公然は広く世間に知られ、表沙汰になり、誰でも知っており、土地の占有に対して一切秘密や隠し立てをしていない状態のことになります。

平穏かつ公然の占有の根拠は「民法第百八十六条1項」によります。

一定期間の占有

一定期間の占有とは、占有を開始してから現在まで絶え間なく占有していることです。

占有の始まった時点と終わった時点を証明することができれば、一定期間の占有があったことが推定されます。

原則は20年間継続して占有しなければなりません。

ただし善意かつ無過失の占有であれば10年間の継続の占有でも認められます。

法律的に善意とはその事実を知らなかったことという意味で、一般的に考えられる良いこと、悪いことという意味ではありません。

無過失とは、落ち度や不注意がなかったという意味で、過失は注意義務違反という意味になります。

一定期間の占有の根拠は「民法百八十六条第2項」によります。

時効の援用

時効の援用とは、時効が成立したことを法律上の本来の持ち主に対して権利を主張することです。

「援用」には自分が利益を得るためにある事実を主張するという意味があります。

占有者が時効を援用することで裁判所では時効成立を基にした裁判をすることが可能です。

援用の方法に特に決まりはなく、口頭、または文書を送付してのどちらでも有効です。

ただし確実に援用を行ったことの証拠を残すのであれば、内容証明郵便を使って時効援用通知書を相手方に送付することがおすすめです。

時効の援用の根拠は「民法第百四十五条」によります。

(時効の援用)

第百四十五条 

時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

民法(e-Gov法令検索)から引用

他人の物を占有する

他人の物を占有するとは「取得時効」を成立させるための1つの条件として「他人の物」を占有しなければならないからです。

他人の物を占有し、時効取得が生じることで他人の物を取得することができます。

他人の物を占有することの根拠は「民法第百六十二条」によります。

土地の時効取得の手順

土地の時効取得をするには手順通りに行う必要があります。

各段階におけるポイントを理解することで、スムーズに進めることが可能です。

こちらでは一般的な土地の時効取得に関する手順について解説します。

要件を満たしていることの確認

1つ目は土地が時効取得の要件を満たしているのかを確認することです。

そもそも土地が時効取得の要件を満たしていないと時効取得はできません。

要件は次の通りです。

・所有の意思

・平穏かつ公然の占有

・一定期間の占有

・時効の援用(こちらに関しては土地の登録名義人の確認の後でもよい)

・他人の物を占有する

以上、これらすべての要件をそろえる必要があります。

土地の登録名義人の確認

2つ目は土地の登録名義人を確認することです。

こちらは登記簿謄本に登録されているので法務局で確認をすることができます。

また土地の取得後には登記手続きをしなければなりません。

ところで土地の登録名義人の確認をすると、さまざまな問題点が浮かび上がります。

土地の登録名義人が亡くなっている場合、登録名義人に判断力がない場合、土地が複数の相続人で共有している場合などです。

土地の登録名義人に対し「取得時効」の援用をする

3つ目が土地の登録名義人に対し「取得時効」の援用の意思表示をすることです。

簡単にいうと土地の登録名義人や権利者に対して「長年この土地は私が守ってきたので、私にもらう権利があります」という宣言をすることになります。

一番確実な方法は内容証明郵便を使って時効援用通知書を相手に送付することです。

そうすることで裁判になった時の有力な証拠となり土地の時効取得に有利に働きます。

また訴訟をすることで、訴状・答弁書・準備書面などが取得時効の援用をしたことになります。

所有権移転登記を共同で申請

4つ目は所有権移転登記を共同で申請することです。

ここはあくまで土地の登録名義人が承諾してくれてからの話になります。

もし承諾してくれない場合は話合いをして承諾してもらうか、民事裁判で取得時効の成否を判断してもらう必要があります。

ちなみに所有権移転登記とは、不動産の所有権が売主から買主に移った時に登記簿謄本に登録することです。

所有権移転登記の流れ

所有権移転登記の流れは次の通りです。

・所轄の地方法務局で登記申請書をもらう

・登記申請書に必要事項を記載、押印をし、必要な書類を添付する

・登記申請書を提出する

申請書に問題がなければ通常申請から12週間程度で所有権移転登記が認められます。

土地の時効取得に関する手続きは初心者ではかなり難易度が高い作業です。

そのため土地の時効取得に詳しい弁護士などの専門家に代行してもらうことをおすすめします。

相続不動産に住み続けると時効取得はできるのか?

仮に相続人が遺産分割をしていない相続不動産に何十年住み続けても時効取得で取得することはできません。

その理由は相続不動産が遺産分割が実行される前段階の不動産だからです。

この状態は法定相続分の割合で共有しているだけの状態になります。

単に相続不動産を1人の相続人が単独で使っているだけでは時効取得はできません。

相続人が相続不動産を取得するには、遺産分割を完了し、名義の変更を済ませて初めて取得することが可能です。

よってただ相続不動産に長年、住み続けても自分の物にすることはできません。

相続不動産とは土地や建物等のことになります。

ちなみに遺産分割とは、相続人が全員集まって相続財産を分ける手続きのことです。

土地の時効取得に関する最新の改正点

土地の時効取得に関する直接の最新の改正点はありません。

ただし202441日から「相続登記」が義務化されたことで、相続不動産に関する土地の時効取得問題が大きく改善することが予想されます。

相続登記とは、被相続人が登録名義人だった不動産の名義を相続人の名義に変更することです。

相続登記の義務化には次の3つのポイントがあります。

・義務化の開始は202441日から

・期限は相続を知った日から3年以内、遺産分割が成立した日から3年以内

・過去に発生した相続物件にも適用される

これにより登録名義人不明地や名義人の相続問題のトラブルが発生していた土地の時効取得問題を起こりにくくしてくれるかもしれません。

また今回の法改正では正当な理由がなく、3年の期限を過ぎた場合には10万円以下の過料がかかってくる可能性があるので注意が必要です。

相続不動産に関する時効取得(トピック)

こちらでは相続不動産に関する時効取得についてご紹介します。

今回のケースは被相続人が父、相続人がそれぞれ長男、次男、長女です。

遺産分割協議は成立していません。

長男だけが相続不動産を長期で占有している状態が続き、長男は相続不動産の時効取得を主張しました。

当然この場合、原則として長男の相続不動産の時効取得の主張はできませんし認められません。

ところが判例では「その者に単独の所有権があると信ぜられるべき合理的な事由がある場合(最高裁昭和4798日判決)」では例外的に取得時効を認めました。

またその他にも相続不動産に関する時効取得が認められたケースがいくつかあります。

現在、相続不動産に関する時効取得でお困りの方がいれば、ぜひ相続不動産に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。

本案件はウェブの相続センターの掲載によります。

まとめ

今回の記事は土地の時効取得とは何か・成立要件から取得の手順についてご紹介しました。

土地の時効取得は本来の土地の権利者が長い間権利の行使をしないと、権利を他人が取得してしまう制度です。

ただし占有者が何十年も前に遡って要件を証明することは簡単ではありません。

またそれまで権利の行使をしなかった人でも、いざ権利が奪われるかもしれない状況になると感情的な対立に発展する恐れがあります。

手遅れになる前に、早急に専門家への相談がおすすめです。

弁護士に相談することで次の3つのメリットを得ることができます。

・成立要件を満たしているかの確認

・土地の取得時効が相続財産だった場合の対応

・トラブルに発展した場合の代理交渉

もし現在土地の時効取得でお困りであれば、ぜひ福田法律事務所に相談・依頼してみてはいかがでしょうか。

 

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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