
【土地と建物の所有者が違う相続】5つのケースやトラブル・注意点と対処法を解説
土地と建物の所有者が違う相続でお悩みの人は必見。本記事では想定されるトラブルやデメリットを解説します。記事を読むと、土地と建物の所有者が違う相続問題をスムーズに進める情報が見つかります。
土地と建物の所有者が違う相続で、対応に困っていませんか? トラブルや手続きなどに不安のある方も多いでしょう。 実は、土地と建物の所有者が違う相続は、放置すると複雑な問題に発展しがちです。本記事では、土地と建物の所有者が違う相続で起こりうるトラブルやデメリットを解説します。この記事を読めば、適切な対処法が分かり、解決への糸口が見つかるでしょう。
目次
相続で土地と建物の所有者が違う5つのケース
相続で土地と建物の所有者が違う状況は、さまざまな原因で発生します。ご自身のケースを知ることは、この後のトラブルやデメリットを知る上で重要です。以下では、代表的な5つのケースの概要を見ていきましょう。
親名義の土地に子どもが家を建てた
親名義の土地に子が家を建てている状況で親が亡くなると、その土地は相続財産となり、遺産分割の対象に含まれます。
建物が子の名義であっても、当該土地は優先的に相続できません。
土地の所有権は親にあり、遺言書がなければ土地は法定相続人全員の共有財産です。
親から土地を無償で借りる「使用貸借」で家を建てていた場合、相続発生後は土地が共有状態になるため、利用継続には他の相続人との遺産分割協議で合意が必要です。
遺産分割協議がまとまらなければ、土地の利用が難しくなる可能性もあります。賃料を支払う「賃貸借契約」の場合でも、相続により貸主の地位が他の相続人に引き継がれるため、話し合いが必要となるでしょう。
土地と建物の所有者が違う状態で相続を迎えると、土地の権利関係が複雑になり、相続人の間でのトラブルに発展しやすくなります。
親名義の土地に親子共有名義の家を建てた
親名義の土地に親子で資金を出し合って家を建て、建物を親子共有名義にしているケースがあります。この場合でも、親が亡くなると土地全体が相続財産として遺産分割の対象です。
遺言書がなければ、土地は法定相続人全員の共有財産です。建物の共有持分を持っていることは、土地の相続権の優先度に直接影響しません。
同居していた子がそのまま住み続けたいと希望しても、土地全体を相続するには他の相続人との遺産分割協議で合意を得る必要があります。他の相続人が土地の分割や、相続分に相当する金銭を求めることも考えられるでしょう。
このような場合には、子が土地を単独で相続する代わりに、他の相続人へ代償金を支払う「代償分割」で解決を図る方法があります。
建物が親子共有名義であっても、親名義の土地の相続は別問題として考える必要があります。
相続した土地の名義変更をせずに建物を建てた
相続した土地の相続登記をせずにその土地上に建物を建ててしまうと、将来的にさまざまなトラブルにつながる可能性があります。土地と建物の所有者が異なることで、法的に複雑な問題が発生するためです。
親から土地を相続した子が、登記しないまま自己名義の建物を建てたケースなどが該当します。たとえ子の代で遺産分割が済んでいても、土地の登記名義が祖父などさらに上の世代のままだと、その土地には他の家族や親族が共有持分を持つ可能性があり得るでしょう。
この状態を放置すると、土地の売却や活用が難航するリスクが高まります。2024年4月1日から相続登記は義務化されましたが、過去に建てられた建物では確認が必要です。
こうした問題を回避するため、土地と建物の名義統一に向けた手続きを速やかに進めましょう。
被相続人が賃貸していた土地に賃借人が家を建てた
被相続人が第三者へ貸し、賃借人が建物を建てた土地(底地)を相続した場合、土地の利用や処分に大きな制約が生じる可能性があります。賃借人の借地権が法的に強く保護されており、所有者であっても自由な利用が制限されるためです。
このような底地は、賃借人の同意がなければ自由に開発や売却することが困難です。複数の相続人で共有相続すると、借地人とのやり取りや地代管理を巡って、相続人の間でトラブルが生じやすくなります。
また、底地は一般的に需要が限られるため、売却価格が相場より安くなる点はデメリットです。被相続人の賃貸人としての地位は相続人に引き継がれ、借地権も相続後存続します。
被相続人が貸していた土地の相続においては、底地の特性を十分に理解しましょう。
被相続人が借りた土地に被相続人名義の家を建てていた
被相続人が借りていた土地に建てた建物を相続する際は、建物とともに借地権も引き継ぎます。
ただし、その後の利用や処分には土地所有者の協力が求められます。建物所有のための借地権は相続できますが、借地権付き建物の売却など、権利に関わる行為には土地所有者の承諾が必要となるためです。
具体的には、亡くなった方が賃借していた土地に自宅を建てていたケースなどが挙げられます。
相続人は自宅と借地権を相続し、そのまま居住することは可能ですが、第三者への売却時には原則として、地主の承諾と地主への名義書換料が必要です。建て替えなどには制限が生じる場合があります。
被相続人が借りた土地上の建物を相続した際は、借地契約を確認し、土地所有者との協議を進めることが重要です。
参考:国税庁「借地権の譲渡又は転貸に際して地主に支払われる名義書換料」
相続で土地と建物の名義が違うことで起こる4つのトラブル
相続により土地と建物の名義が異なると、主に次のようなトラブルが想定されます。
・立ち退きの際のトラブル
・解体の際のトラブル
・住宅ローン返済のトラブル
・固定資産税の支払いのトラブル
以下で詳しく見ていきます。
立ち退きの際のトラブル
相続した借地上の建物について立ち退きを求められても、借地借家法で保護されているため、正当な事由がない限り立ち退く義務はありません。建物所有を目的とする借地権は、借地借家法により借主の権利が強く守られており、土地所有者が契約を終了させるには「正当な事由」が必要だからです。
正当な事由は、地主側の土地利用の必要性や立ち退き料の提供などを総合的に考慮して判断されます。地主の都合だけでは認められにくく、地主が自身で住む必要がある場合など限定的です。最終的には双方の必要性や立ち退き料の有無が争点になります。
立ち退きの要求を受けた際は、速やかに専門家へ相談し適切に対応しましょう。
解体の際のトラブル
土地と建物の所有者が異なる不動産では、将来建物を解体する際にトラブルが発生する可能性があります。土地と建物の所有権が別々のため、解体には両者の合意や法的な手続きが必要となるからです。
借地契約終了時に建物を解体するケースが挙げられます。原則として建物所有者が費用を負担しますが、高額なため費用負担や建物の扱いでもめるケースが考えられます。
土地所有者は勝手に建物を解体できず、建物所有者が応じない場合は訴訟となる可能性もあるでしょう。
土地と建物の所有者が違う不動産の解体は、複雑なため関係者でよく協議の上、手に負えない場合は専門家への相談が推奨されます。
住宅ローン返済のトラブル
土地と建物の所有者が異なり、特に土地に建物所有者の住宅ローンの抵当権が設定されている場合、相続後にローン返済のトラブルに巻き込まれるリスクがあります。住宅ローンの滞納が続くと、担保の土地が金融機関に差し押さえられ、競売にかけられる可能性があるからです。
例えば、親名義の土地に子が建てた家の住宅ローンで、親が土地を担保に入れたケースを相続した場合です。親の死後、土地を兄弟姉妹で共有相続した後に子が住宅ローンを滞納すると、ローンに関係のない共有者も土地を失う事態になりかねません。
そのため、土地に抵当権が設定された不動産を相続する際は、住宅ローンの返済状況が順調か確認しましょう。
固定資産税の支払いのトラブル
土地と建物の所有者が違う不動産では、固定資産税の支払いがトラブルの原因になることがあります。土地と建物は別々に課税され、納税義務者も異なるため、一方の滞納が他方に影響を及ぼす可能性があるためです。
地主から土地を借りて建物を所有している場合、土地の税金は地主、建物の税金は建物所有者(相続人)にかかります。もし地主が土地の固定資産税を滞納すると、延滞金が発生し、土地が差し押さえられるリスクが生じます。これは建物所有者の借地権にも影響しかねません。
相続した土地や建物で所有者が異なる場合は、それぞれの固定資産税の納税状況へのリスク管理が必要です。
土地と建物の名義が違う相続不動産を売却する方法
相続した土地と建物の名義が違う不動産を売却したいと思っても、名義が異なることで売却が難しい場合もあります。以下では、スムーズに売却を進めるための3つの方法について解説します。
土地もしくは建物を名義変更後に売却
土地と建物の所有者が違う相続不動産は、先に名義を統一してから売却する方法があります。土地と建物の所有者が同じになることで、買主にとって権利関係が明確になり、売却しやすくなるためです。
建物所有者が土地を買い取るケースでは、名義統一後は通常の不動産として売り出しやすくなります。買主は安心して購入しやすくなるものの、名義の統一には土地や建物を買い取るための費用がかかる点はデメリットです。
この方法は売却の可能性を高めますが、費用負担についての検討が必要です。
土地もしくは建物を名義変更せず同時に売却
土地と建物の名義が違う相続不動産は、名義を統一せずに、それぞれの所有者が同時に売却することも可能です。買主にとっては、所有者が異なっていても土地と建物をまとめて取得でき、権利関係を整理しやすくなるためです。
この方法では、土地と建物でそれぞれ売買契約を結びます。契約内容には「両方の契約が成立して初めて有効」とする旨の取り決めが必要です。こうした名義の異なる不動産の同時売却に対応できる不動産会社を探す必要があります。
名義統一の費用や手間は省けますが、手続きが複雑になる点に注意しましょう。
土地と建物を個別に売却
相続によって土地と建物の所有者が別々になった不動産を、それぞれ単独で売却することは、現実的に買い手を見つけるのが非常に困難です。土地や建物だけを購入しても、もう一方の所有者がいることで利用が制限され、買主にとっての価値が著しく低くなるためです。
例えば、親から土地を相続した兄弟と、建物だけを相続した別の兄弟がいるケースを考えてみます。単独で売却する権利はありますが、土地を買っても建物利用に制約があり、建物を買っても土地の利用が保証されないなど、買主は大きなリスクを負います。
個別の売却は法律上可能でも、実質的なハードルが高いため、他の売却方法や解決策を検討した方が賢明といえるでしょう。
土地と建物名義を統一するときの注意点
相続によって土地と建物の名義が異なる状態を解消し、名義を統一することは有効な対策の1つですが、いくつか注意すべき点があります。以下では、名義を統一する際に知っておきたいポイントを紹介します。
住宅ローンを支払っている場合│金融機関の許可が必要
住宅ローンを返済中に土地と建物の名義を統一するには、必ず事前に金融機関の許可が必要です。住宅ローンには土地や建物に抵当権が設定されており、金融機関の承諾なしに名義変更を行うと、契約違反として住宅ローンの一括返済を求められるリスクがあるためです。
金融機関に無断で名義変更して一括返済に応じられない場合は、不動産は差し押さえられ、競売にかけられる恐れがあります。事前に金融機関の許可を得られれば、その後の居住や売却が可能になりますが、売却代金で住宅ローンを完済できない場合は自己資金での補填が必要です。
住宅ローンが残っている不動産の名義統一は、無断で行うと危険なため、金融機関への相談が不可欠です。
相続人と連絡が取れない場合│不在者財産管理人を選任
相続人の中に連絡が取れない不在者がいる場合でも、不在者財産管理人制度を活用すれば遺産分割協議を進められます。
遺産分割協議は相続人全員の参加が必要ですが、不在者財産管理人は家庭裁判所が選任し、音信不通の相続人に代わって遺産分割を含む財産を管理する権限を持つためです。
長年にわたって行方不明の相続人がいるケースでは、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることで、不在者財産管理人を通じて遺産分割手続きを進めることが可能になります。
連絡困難な相続人がいる場合、不在者財産管理人制度は有効となるものの、手続きには専門知識が必要なため弁護士への相談をおすすめします。
まとめ│土地と建物の所有者が違う相続では弁護士への相談を
土地と建物の所有者が違う相続は、複雑な権利関係からさまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。立ち退きや解体、住宅ローン、固定資産税といった問題や、名義統一、売却などの対応には専門知識が不可欠です。
これらの問題を適切に解決し、将来的なリスクを回避するためには、相続や遺産分割への実績が豊富な弁護士に相談することが賢明といえます。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。