



当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。
先日、一人暮らしをしていた父が病死しました。長男である私と、弟1人、妹2人の4人で遺産分割をしますが、なかなか話し合いが進まない状況です。特に実家のある土地はそれほど広くはなく、4人で分割するのは現実的に難しいです。そこで弟が、とりあえず共有名義にしてはどうかと提案してきました。不動産は共有名義にしても法律的には問題ないのでしょうか?
不動産を相続人の共有名義にすること自体は、法律違反ではありません。しかし、共有名義はトラブルに発展することが多く、あまりおすすめはしません。以下、詳しく説明します。
相続した不動産を相続人の共有名義にすると、処分するのに全員の同意が必要です。名義人全員の同意を得るのはなかなか簡単なことではありません。売却はもちろん、担保権や抵当権の設定、土地の改良など、不動産にかかわる法的な手続きはすべて名義人全員の同意がなければできません。「相続人同士、仲がいいから問題ない」などの理由で共有名義にするケースも見られますが、果たして本当にそうでしょうか。
例えば、相続人のうちの誰かが「固定資産税の支払いが負担だから土地を売却したい」と主張しても、「まだ売り時ではない」「将来、誰かが住むかもしれないから」などの理由で反対されたら、売却は不可能です。結局、不動産の活用ができないまま、手を付けられない状態となり、資産価値が落ちてしまう可能性も十分に考えられます。
不動産を共有名義の状態で名義人のうちの1人が死亡した場合、その名義人の配偶者や子などが法定相続人となるため、持ち分がさらに細分化されます。遺産分割協議の際には、共有名義人と法定相続人が協議することになりますが、相続人の人数が増えると話し合いがまとまりにくく、不動産の処分がほぼ不可能になります。
不動産の共有名義は、その場では争わずに円満解決になるかもしれません。しかしそれは、遺産分割の問題を先送りしていることに他ならず、根本的な解決にはなりません。それに、先送りすればするほど、権利関係は複雑になり、問題解決が困難となります。相続する不動産の共有名義で登記してしまった方、あるいはすでに共有名義の不動産を相続している方は、問題解決のためにも速やかに名義変更の手続きをすることをおすすめします。
相続人同士のトラブルを防ぐためにも、不動産は単独名義にするのがベストです。ただし、相続人のうち一人が財産を独占する状態となるため、次に挙げる2つの方法のいずれかで遺産分割を行いましょう。
相続人のうち一人が不動産などの現物を相続し、ほかの相続人に相続分相当の代償金を支払う方法を代償分割といいます。遺産分割において現物分割が理想的でも、金銭で調整するしかないときに利用されます。
ただし、代償分割は物理的に現物分割が不可能な場合や、代償分割の方が合理的な場合などの特別な事情がなければ原則として認められません。
不動産などの財産を売却し、その売却代金を相続人同士で分割する「換価分割」という方法があります。現物分割も代償分割もできないときに換価分割が行われます。
以上を踏まえて、相続する不動産の名義は一人だけに絞ることを前提に遺産分割協議を進めることをおすすめします。不動産の名義についてほかの相続人同士で揉めてしまう可能性があるときは、相続に強い弁護士にぜひご相談ください。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。