相続人の一部が相続財産を明らかにしない
■親と離れて暮らす子・同居している子
兄弟が何人かいる家族で、兄弟のうち1人の子が親と同居し、その他の子は親と離れて暮らしているというケースでは、通常は親の財産について一番よく知っているのは同居している子です。
認知症になっているなどの理由で親の財産を全般的に管理している場合もありますし、そうでなくても定期預金・生命保険・年金などの諸手続を親自身で行うのが困難な場合、親が付き添いなしに外出できない場合などでは、同居している子が親を手伝うことで自然と親の財産を把握するようになることは、不自然ではありません。
他方、同居していない子は親の財産には関与しないので、親がどこにどのような財産をどれくらい持っているか、正確に把握していないことがほとんどです。親が亡くなるまで全く知らないケースもあります。
それでも、同居している子が親の財産を適切に管理していればよいですが、自分だけが親の財産管理に関わっているのをいいことに、親の預金を不正に引き出して取り込んでしまったり、財産の名義を変更してどこかに隠匿してしまう場合があります。 親が亡くなったのち、同居していた子が親の遺産に関する情報を開示しないと、同居していない他の子は生前何か不正があったのではないかと疑心暗鬼になってしまいます。
■相続財産の範囲は前提問題
このように、相続人のひとりが被相続人の遺産を取り込んでいる疑いがある場合、他の相続人はどうすればよいのでしょうか。
遺産分割は、相続人の数と相続財産の範囲を確定させなければ話が始められません。
ですので、相続人の一部が相続財産の全容を明らかにしない場合、遺産分割協議ができません。
このような場合、被相続人の遺産を開示しない相続人に開示を求めていくのは当然ですが、自らも同じ相続人の立場ですので、自ら金融機関、保険会社、自治体等に被相続人の財産(預貯金・有価証券・生命保険・固定資産)に関する情報の開示を求めていくことができます。
また、相続税の申告が必要になる相続であれば、相続税の申告書に捺印を求められた際に詳細な内容を確認させてもらうことも考えられます。(ただし、相続税を計算する際の相続財産の範囲と、遺産分割の際の相続財産の範囲は異なりますので注意が必要です。)
■財産を隠す動機
さらに言えば、他の相続人が、同じ相続人という立場にもかかわらず、相続財産の一部を明らかにしようとしない理由を考えなければなりません。 先ほど例に挙げたように、
- こっそり被相続人の生前に多額の援助を受けていたのが発覚するから
- 相続開始前あるいは相続開始後に無断で遺産を取り込んでしまったから
- うやむやのまま既成事実を積み重ねて遺産を独占しようと考えているから
などというケースが考えられます。 いずれの理由であっても、紛争に発展する可能性の高いケースですから、これらが予想される場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
■開示の求め方は慎重に
もっとも、相続人のひとりが他の相続人に対して遺産に関する情報開示を拒否するのは、必ずしもこういった事情がある場合に限りません。
親と長年同居していた子から見れば、他の兄弟たちは親が生きている間は自分だけに親の世話を押し付け、亡くなった途端に遺産について詮索してきたように映ります。
これだけでも面白くないのに、まして手間をかけて適切に財産管理してきたのを疑いの目で見られると、心情的に反発してやましい所がなくても遺産開示を拒否してしまうこともあります。
ですので、不正が明らかな場合はともかくとして、他の相続人に遺産内容の開示を求めるには、それなりに相手の立場に配慮した求め方を考えるほうが無用のトラブルを防げるでしょう。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。