海外に相続財産がある場合の相続
はじめに
当事務所に寄せられたご質問にお答えいたします。
30代男性。先月、父親を突然の事故で亡くしました。父はニューヨークに不動産を所有していましたが、不動産の相続手続は日本とアメリカ、どちらの国の法律に従って行うべきなのでしょうか?自分も父も日本国籍です。
外に財産がある場合、相続法や手続が日本と異なるため、通常よりも相続手続が複雑になります。
ここでは、海外に相続財産がある場合の相続の進め方についてご紹介します。
準拠法の決定
問題の出発点として、日本とアメリカどちらの相続法が適用されるかという、準拠法の問題があります。
日本は、被相続人のすべての財産について、被相続人の本国法を準拠法として相続するルールになっています(統一主義:法の適用に関する通則法36条)
他方アメリカは、不動産以外の財産は被相続人の本国法を準拠法とするものの、不動産は被相続人の本国法ではなく、不動産がある場所の法律を準拠法とするルールになっています(分割主義:Restatement (Second) of Conflict of Laws § 236)。
なお、アメリカの場合、州によって法律が異なることがあり、例えば複数の州に保有資産があるといった場合、当事者にとって最も密接な関係がある国や地域の法に従って手続を行います。
実務上の手続
被相続人は日本国籍ですから、まず本国法である日本法にしたがい、ニューヨークの不動産も含むすべての財産を相続します。
そしてその結果をもとにニューヨークで不動産の名義変更などの相続手続をするのですが、このときアメリカのルールでは不動産があるニューヨーク州の法律によってしか相続できませんので、ニューヨーク州の法律に従った手続を求められるはずです。
このように、準拠する法律が決まった後、それにしたがって相続手続を進めていけばよいはずなのですが、実際にはあいまいな部分がかなり残されています。
これについては、現状では厳密に決まった方法はありません。アメリカの場合に限りませんが、国籍のある国と保有資産がある国の法律を照らし合わせ、合理的な方法で手続を進めていきます。
結果的には、不動産以外は日本の法律、ニューヨークの不動産についてはアメリカの法律に基づき名義変更手続をすることになると思われます。
ご相談者の場合、ニューヨークの不動産に関しては、日本法に基づいた遺産分割協議書を作成しておいて、ニューヨーク州の裁判所における相続手続(検認:probate)において、その英訳した遺産分割協議書を利用するなどの方法が考えられます。
遺産分割協議が整わない場合について
ニューヨークにある不動産を含めた遺産の分割について、協議が整わない場合を考えてみます。
被相続人は日本国籍であり、ニューヨークの不動産を含めた遺産の分割について、日本の家庭裁判所は日本法を適用して遺産分割調停・審判を行うことができます。
しかしアメリカでは、国際私法上も不動産の分割は不動産の所属国に専属するという考え方で一貫しており、日本の家庭裁判所が日本法を適用して下した調停・審判を受け入れる可能性はないと言われています。
かといって、日本の家庭裁判所がニューヨーク州の法律を適用して遺産分割審判をすると、法の適用に関する通則法違反として上告理由となります。
結局、遺産分割協議が整わない場合、ニューヨークの不動産に関してだけはニューヨーク州の裁判所で相続手続をとる必要があります。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。