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放置された不動産を動かす新ルール:所有者不明土地建物管理制度の完全ガイド

近年、日本中で「空き家問題」や「所有者不明土地」が深刻な社会問題となっています。登記簿を見ても持ち主が誰かわからない、あるいは分かっていても連絡がつかないといった不動産は、周囲の景観を損なうだけでなく、災害時の危険や再開発の妨げにもなっています。

こうした状況を打破するために、令和5年4月に施行されたのが「所有者不明土地建物管理制度」です。

この記事では、この新しい制度の仕組みから具体的な手続、管理人の業務内容まで、専門的な知識がない方でも理解できるよう徹底的に解説します。

所有者不明土地建物管理制度の概要

なぜ今、この制度が必要なのか

これまでの日本の法律でも、持ち主がいない、あるいは行方不明の財産を管理する仕組みは存在しました。

たとえば、行方不明になった個人の財産を管理する不在者財産管理制度(民法25条以下)や、相続人がいないか、いるかどうかわからない場合に選任される相続財産清算人(民法952条以下)です。

これらは、裁判所が管理人や清算人を選任し、財産を管理する制度です。

しかし、それらには「使い勝手の悪さ」という大きな壁がありました 。それは、「人単位」で財産を管理しなければならないという点です 。

例えば、ある特定の土地だけが放置されて困っている場合でも、従来の制度では「その行方不明者の全財産」を調査し、管理対象に含めなければなりませんでした 。そのため、手続が非常に複雑になり、裁判所に納める費用(予納金)も高額になってしまうため、一般市民や民間企業が利用するにはハードルが高すぎたのです 。

また、不動産が数人の共有になっている場合、行方不明者が複数いれば、その人数分だけ管理人を選任しなければならないという非効率なルールもありました 。さらに、登記や戸籍を追っても所有者を全く特定できない場合には、これらの制度自体が利用できないという深刻な問題もありました 。

新制度の画期的なポイント

新しく誕生した「所有者不明土地建物管理制度」は、これまでの「人単位」から「不動産単位」へと視点を大きく転換しました 。

この制度の最大の特徴は、「特定の不動産に限定して管理を行う」ことを可能にした点にあります 。

すなわち、行方不明者の全財産を追う必要がなく、問題となっているその土地・建物だけをピンポイントで管理・処分できます 。また、土地の共有者のうち一部が不明な場合、その不明な人の「持分」だけを対象に管理人を立てることができます 。そして、管理人が選ばれることで、放置されていた土地を売却したり、公共事業に活用したりすることがスムーズになります 。

このように、特定の不動産の管理に特化することで、コストを抑え、迅速な解決を目指すのがこの制度の狙いです。

所有者不明土地管理命令の申立て

「隣の空き地をなんとかしたい」「連絡の取れない共有者がいて土地が売れない」といった場合、まずは裁判所に対して「管理人を立ててください」という申立て(管理命令の申立て)を、その不動産の所在する地を管轄する地方裁判所に申し立てる必要があります(民法264条の2第1項・同法264条の8第1項・非訟事件手続法90条1項) 。

誰が申し立てることができるのか(申立権者)

この制度は誰でも自由に利用できるわけではありません。その不動産の管理について「利害関係」を持っている必要があります(民法264条の2第1項) 。

「利害関係」のある人とは、たとえば放置された不動産のせいで、枝の侵入や倒壊の恐れ、害虫の発生などの不利益を被る可能性がある隣地所有者であったり、不動産を共有しているが、他の共有者が不明なために売却や修繕ができない人などです。

また、道路整備や公園設置などのためにその土地を取得して適切に管理したいと考える国や自治体、事業者や、その不動産の取得に具体的な購入計画のある人も含まれます。

さらには、市町村長なども、地域の安全や適正な利用のために申し立てが可能です(空き家対策特別措置法14条3項)。

申立ての準備と事前の調査

裁判所へ申し立てる前に、最も重要かつ大変な作業が「所有者の調査」です。「本当に所有者がわからない、あるいは居場所が不明である」ということを証明しなければなりません。とくに相続が積み重なっているような場合、専門的な調査が必要になる場合があります。登記名義人が個人の場合、登記簿上の住所だけでなく、住民票の除票や戸籍の附票などを辿り、本籍地なども調査します。登記名義人が法人の場合、法人登記簿を確認し、会社が実在するか、代表者が誰でどこに住んでいるかを調査します 。

そして必要に応じて、実際にその土地へ行き、近隣住民への聞き取りなどを行って居住の実態がないかを確認します。これらの調査を尽くしてもなお、「所有者が特定できない(不特定)」または「居場所がわからない(所在不明)」場合にのみ、制度の対象となります。

申立てにかかる費用

申立てには、裁判所に納める予納金が必要です 。予納金には、管理人の報酬 、官報に掲載するための公告費用 、管理に最低限必要な費用が含まれます。一般的には30万円から50万円程度が多いですが、建物を解体することが前提であれば、その解体費用もあらかじめ納めるよう求められることがあります。また、追加の管理費用が生じる場合、追加で費用の納付を求められる場合もあります。

予納金は、管理命令発令後、上記費用を充足できるだけの不動産売却等による利益が出れば返却されます。

予納金のほかにも、申立手数料、郵便切手代、登録免許税を納める必要があります。

予納金が支払われない場合、裁判所は申立てを却下してしまいます 。

管理命令の発令

 申立てがあると、裁判所は申立てがあったことを公告します。公告から1か月以上の異議届出期間に異議届出がなければ、次の要件を満たす場合に裁判所から管理命令が発令されます(非訟事件手続法90条2項・同条16項・民法264条の2第1項・同法264条の8第1項)。

 ①所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないこと

 ②管理命令発令の必要があると認められること

なお、管理人が選任されるのは管理命令が発令されたときですが、申立てから発令までは1か月以上かかります。なので、実務上は管理命令の申立てがあると、裁判所から管理人就任予定者に連絡があり、費用のかからない範囲での管理に着手することが多いです。この段階で管理人就任予定者は、不明不動産の現地を見に行ったり、申立人と打合せをして現状を把握します。

 管理命令が発令されると、専門家(弁護士や司法書士など)が「管理人」として選任されます(民法264条の2第4項、同法264条の8第4項)。また、管理命令が発令されたことが登記により公示され、誰でも管理命令が発令されていることを知ることができるようになります(非訟事件手続法90条6項・同条16項)。

所有者不明土地建物管理人の業務

管理命令が発令されると、不動産の管理処分権が管理人に専属することによって所有者ですら管理権を失い、管理人は、持ち主の代わりにその不動産を守り、動かす役割を担います(民法264条の3第1項・同法264条の8第5項)。多くの場合、不動産の売却や建物の取壊しなどを目標に活動します。 

 

管理の対象となる範囲

管理人が権限を持つのは、以下の範囲に限定されます(民法264条の2第2・3項、同法264条の8第2・3項)

土地の場合: 管理命令の対象となった土地そのもの、その土地上にある動産(所有者のものに限る)、およびそれらの管理・処分によって得た財産(売却代金など)が対象です 。ただし、土地の上に別の持ち主の建物がある場合、その建物まで勝手に管理することはできません。その建物の所有者もわからない場合は別途建物についての所有者不明建物管理命令の申立て等が必要になります。

建物の場合: 対象となった建物、その中の動産(所有者のものに限る)、敷地を利用する権利(賃借権など)が含まれます 。未登記の建物であっても対象にすることが可能です 。

管理人の権限:できること・できないこと

管理人は、所有者に代わって強力な権限を持ちますが、何でも自由にできるわけではありません(264条の3第2項、同法264条の8第5項) 。

管理人の判断だけでできること(保存・利用行為)

不動産の価値を維持するための修理や、性質を変えない範囲での利用は自由に行えます 。

・壊れた箇所の修理。
・伸び放題の草刈り。
・不法投棄の清掃。

裁判所の許可が必要なこと(処分行為)

不動産の価値を大きく変えるような行為には、必ず裁判所の許可が必要です 。

不動産の売却: 「もう二度と所有者が現れそうにない」「管理し続けるよりも売却した方が利害関係者のためになる」といった場合に検討されます。裁判所は、売却価格が適切か、買主は怪しくないか、所有者が戻ってくる可能性はないかなどをチェックします 。

建物の取り壊し:建物管理命令は本来建物の適切な管理が目的ですので、取壊しはこれと矛盾するところですが、倒壊の危険が著しく高い場合や建物の価値、周辺への損害や損害のおそれなどによっては例外的に許可されます。実務上は最初から建物取壊しを目的として申立て、裁判所もそれを前提に取壊費用の予納を求めて管理命令を発令することも少なくありません。

管理人の義務:誰のために働くのか

管理人は「所有者のため」に、善良な管理者の注意を持って職務を遂行する義務(善管注意義務)を負っています(民法264条の5第1項、同法264条の8第4項) 。

ここで興味深い注意点があります。例えば、土地と建物の所有者が異なるケースを考えてみましょう。建物を解体するための費用がないからといって、土地を売ったお金を建物の解体費用に充ててしまうことは、土地所有者の利益を損なうため、義務違反になる可能性があります。建物の解体費用は、建物の所有者が支出すべきものだからです。管理人は常に、誰の権利を守っているのかを意識して行動しなければなりません。

業務の終了と精算

管理人の業務が終わるのは、主に不動産が売却や取壊され、その手続が完了した時です。

裁判所への報告

売却や取壊しにより管理する不動産がなくなった場合、管理人は裁判所にその旨や管理にかかった費用を報告し、報酬の決定を求めます。

売却代金の供託

 売却して得たお金から、経費や裁判所の決定した管理人の報酬を差し引いた残金は、法務局などの供託所に預けられ、その官報で旨公告します(非訟事件手続法90条8・16項) 。これは、将来もし本当の所有者が現れた時に、そのお金を渡せるようにするためです。

管理命令の取消

役割を終えると裁判所が管理命令を取り消し、登記も元に戻されます(非訟事件手続法90条9・10・16項) 。

報酬の支払い

管理人の報酬は、原則として対象となった不動産の価値(売却代金など)から支払われます(民法264条の7・同法264条の8第5項) 。売却代金で足りる場合は、最初に申し立てた人が払った予納金は返還されます 。

まとめ:これからの不動産管理

所有者不明土地建物管理制度は、長年放置されてきた負の遺産を、再び社会の資産として活用できるようにするための「救済策」です。

•人ではなく不動産を見ることでコストと時間を短縮できる。
•隣人や購入希望者など、広い範囲の人に申立権がある。
•裁判所の監督の下、クリーンに売却や解体ができる。

もしあなたの周りに、持ち主がわからず荒れ果てた土地や、連絡のつかない親族のせいで処分できない建物があるなら、この制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。専門的な調査が必要になるため、まずは弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 弁護士法人紫苑法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。弁護士法人紫苑法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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