



相続の場ではさまざまなトラブルが発生しますが、中でも問題になりがちなのが「名義」に関すること。てっきり自分のものになると思っていた実家が、実は他人名義だった、という話は珍しくありません。
そこで、実家が被相続人名義でなかったときにはどういう問題が発生するのか、対策にはどのような方法があるのかを整理してみます。
日本では、住まい(不動産)の名義が自分のものではない、ということは珍しくありません。持ち家だと思っていた実家が、担保にとられた結果他人の名義になっていたり、そもそも土地部分が他人名義(借地)であったりといったケースです。
そこで実家が他人の名義になっていた場合の問題点を整理してみます。
1.売却(現金化)ができない
実家(不動産)を相続して、それを現金資産に変えようという方は少なくありません。
しかし、他人名義の物件は売却のためにさまざまな手続きが必要です。結論からいうと、所有者の印鑑証明や実印を用意でき、代理人として認められれば他人名義の不動産でも売却できます。しかし、赤の他人の名義の不動産を売却する方法としては非現実的です。
2.ローンの担保として使用できない
住宅ローンの担保は本人名義であることが原則なので、他人名義の不動産はあらたな住宅ローンの担保として使用できません。ただし、こちらも売却と同様に、所有者(名義人)の同意を得られれば担保として設定できます。
しかし、名義人が亡くなっていたり、聞いたこともない赤の他人であったりすると、同意を取り付けることが難しいので事実上不可能に近くなるでしょう。
このように、相続財産が他人名義になっていると、「資産」として使用することが難しくなります。そこで、一刻も早く名義変更(所有権の移転)を行わなくてはなりません。
まず、名義人(所有者)が自分の親類であるのなら、すぐに名義変更の手続きが必要な旨を伝えましょう。
ただし、名義人が死亡している場合には、その名義人の相続人全員の協力が必要になることもあります。さらに名義人が亡くなってから時間がたっていれば、相続人を確定させるだけでも数か月もの時間を要する可能性があります。
また、場合によっては登記簿上の名義人に対し、名義変更を求める訴訟をすることも視野に入れておきましょう。不動産の名義変更は、時間がたてばたつほど複雑です。
名義変更とは別の方法として、名義変更がされないまま10年から20年が経過している不動産については「時効取得」が成立します。これについては、民法の162条に規定があります。
“第162条 (所有権の取得時効)
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。”
簡単に言うと、他人名義のままであっても、実家として使用し続けたまま10年から20年たつと、時効が成立して自分のものになる(所有権が移転する)ということです。
ただし、以下のような手続きが必要になる可能性が高いです。
1.登記簿を遡って所有者を特定する
2.所有者の相続人にあたる人物(全て)を特定する
3.相続人全員に対して時効援用の通知を行う
4.相続人全員と共同で、所有権移転登記を行う。もしくは訴訟を提起する。
こういった手続きは、法律の知識を持ち、相続の問題に強い弁護士でなくては処理できません。さまざまな利害関係者の調査、特定からはじまり、交渉や書類の作成などが発生するからです。
時効取得には、名義人(所有者)の「登記識別情報(権利証)」や「登記原因証明情報」「印鑑証明書」「固定資産税の評価証明書」などが必要です。これらを用意するだけでも、多くの手間と労力を要します。
さらに、これはあくまでも名義人やその相続人の協力が得られる「共同申請」が可能なときです。現実には、協力を得られずに訴訟と判決によって所有権を勝ち取るケースが散見されます。つまり、裁判に持ち込まれる可能性が十分に有るのです。
実家が実は他人名義だった、しかも時効取得できる可能性がある(10年以上住んでいた)、という場合にはすぐに弁護士に連絡しましょう。
このコラムの監修者
福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。