
死亡退職金・遺族年金は遺産となるか
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死亡退職金は遺産となるか
退職金は、何十年か勤めたあとで定年退職の際に支払われるのが普通です。しかし、在職中に事故や病気で死亡した場合にも、勤務先によっては死亡退職金が支給されることがあります。
では、この死亡退職金は遺産として、相続人の間で遺産分割の対象となるでしょうか。
結論からいうと、死亡退職金は勤務先の退職金支給規程に基づいて支払われますが、遺産となるかどうかはその支給規程の規定の仕方による、となります。
単に「労働者の遺族」に死亡退職金が支給されると規定している場合
退職者の配偶者とか子、父母というように、具体的に支給権者を指定することなく単に「退職者の遺族」としている場合は、死亡退職金は遺産となり、遺産分割の対象になると考えてよいと思います。
厚生労働省が作成するモデル就業規則では「退職金は、支給事由の生じた日から_か月以内に、退職した労働者(死亡 による退職の場合はその遺族)に対して支払う。」と規定されており(同規則56条)、「労働者が死亡した場合の退職金の支払については、別段の定めがない場合には遺産相続人に支払うものと解されます。」と解説されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
このように、あえて「労働者の遺族」に支給されるとだけ規定されている場合は、遺族の中で誰が死亡退職金を取得するかは、遺産分割協議に委ねる趣旨であると考えられます。
死亡退職金の受給権者が個別に指定されている場合
これに対し、死亡退職金の受給権者を①生計を同じくする者②生計を同じくする者がない時は、配偶者、子、父母の順に支給する、といった具合に、具体的に(特に順序をつけて)規定している場合には、その指定された者が死亡退職金を直接受給する権利を有しており、遺産には含まれないと言ってよいでしょう。
この問題に関するリーディングケースとなった裁判例では、受給権者の範囲・順位が民法の相続と異なる定められ方をしていることを理由として、この死亡退職金の目的は死亡者の収入に依拠していた者の生活保障にあり、その者の固有の権利として遺産には含まれない(したがって遺産分割の対象にならない)、と判断されています(最高裁昭和58年10月14日判決)。
公務員や大企業における死亡退職金の受給権者は、労働基準法施行規則42条の遺族補償の支給規定を参考に決められていることが多いと言われています。
労働基準法施行規則42条は、第一順位を労働者の(内縁を含む)配偶者、第二順位を労働者の収入によって生計を維持していた者の中で子、父母、孫、祖父母の順、と定めています。
死亡退職金が支給されるような組織・会社にあっては、受給権者の規定も整備されているのが普通ですから、一般的には死亡退職金は遺産とならないケースが多いのではないかと思われます。
死亡退職金と相続税
なお、死亡退職金が支給規定の仕方によって遺産となるかどうかにかかわらず、死亡退職金のうち非課税限度額を超えた金額は、相続税法上は遺産して扱われることに注意です。
遺族年金は遺産となるか
死亡退職金の他に、遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)も遺産になるかどうかが問題になります。
これは死亡退職金よりも明確で、法令によって受給権者が決まっていますから、受給権者固有の権利として遺産に含まれることはありません。
なお遺族年金には原則として相続税も所得税もかかりませんが、例外的に以下の3つの年金には相続税が課税されます。
1 確定給付企業年金法に基づく遺族年金
2 所得税法施行令に基づく退職金共済に関する遺族年金
3 法人税法附則に基づく適格退職年金契約に関する退職年金
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。