
相続で口約束は有効か?確実に相続を実行する方法を丁寧に解説
目次
はじめに
皆さんは、相続における口約束としてどのような場面を想像するでしょうか?
「私が死んだら、私のすべての財産をあなたに相続させる」とか、「生前の父から亡くなった後は、遺産の半分を贈与してくれると聞いていた」等、映画やテレビのドラマで出てくるような印象を持つことと思います。
このような口約束が相続人全員の前でなされたのであればともかく、そうではない状態、すなわち特定の人との間で秘密裡になされた口約束の場合には、その口約束をした当事者以外の者は、その口約束の内容はもちろん、口約束をしたこと自体を認識することができません。
それが、いざ、相続という場面において「実は、生前の被相続人との間で約束をしていた」旨の発言がなされたとしたら、他の相続人は驚くのではないでしょうか。
相続に関する口約束が過去にされているが、それは意味があるか?というご質問をときどき受けます。果たして、相続の際の特定の人との間でなされた、このような口約束は法的に有効なものと言えるのでしょうか。
この記事では、相続における関係者間でなされた口約束について、その法的な有効性を解説していきます。
口約束と一言で言っても、どのタイミングで誰と誰の間で行うどんな約束かによって法的効果は違ってきますので、ここで個別にみていきたいと思います。
あわせて、口約束を実現する具体的な方法も最後に解説します。
この記事を読むことによって、相続の際に口約束を行う際の注意点を理解することができ、他の相続人等との間で発生する可能性がある無用なトラブルを回避することができます。
また、仮にトラブルが発生した場合であったとしても、自らの権利を確保することのできる最善の方法を理解し、迅速に対応することができるようになります。
法律行為の原則と例外
契約は原則として口約束でも成立する、というのを聞いたことがあるでしょうか。
例えば、売買契約は「売る」「買う」という合意だけで成立します。契約書などの書類は、合意内容を証明するための証拠であるにすぎず、その有無は原則として契約の成立に影響しません。しかし、これはあくまで契約一般の原則であって、相続にまつわる場面ではこの原則論がかなり修正されています。
要式行為・要式契約とされる行為
例えば以下の行為は、形式を満たす書面や決められた手続をとらないと、そもそも有効にできないとされています。したがって、これらを口約束でしても無効で、拘束力はありません。
・遺言
・廃除
・相続放棄・遺留分放棄
また、書面によらない贈与(あげる、という口約束)も有効に成立しますが、履行が終わるまで取消し可能とされています(民法550条)
約束自体ができない場合
また、「口約束」の内容を詳しくお聞きすると、それは書面の有無以前に、そもそも約束しえない内容であることが割とあります。当然、これらの口約束には拘束力がありません。
・生前の相続放棄
・生前の遺産分割協議
・相続人の一部による遺産分割協議
以下では、相談の多い個別のケースについて詳しく見ていきます。
口頭による遺言
遺言は、口頭ではできません(危急時遺言など、特殊な状況で作成する遺言を除く)。
法的安定性のために、民法で定められた形式にのっとって書面で作成されたものだけが有効な遺言として扱われます。死んだらこれを相続させる、と被相続人が生前に約束していても、遺言になっていなければ全く効力がありません。
たまに遺言の内容を口述しているところを撮影した動画をみますが、この動画自体は遺言として扱われません。
相続放棄の口約束
生前の相続放棄の約束は無効
相続が開始する前に、「自分は相続では何も受け取らない」と被相続人や他の相続人に対して約束していることがあります。生前贈与を受ける条件としてこれを約束するケース、再婚や養子縁組に納得してもらうためにこれを約束するケースなどが、典型的場面です。
これは(被相続人や他の相続人に対して)相続放棄手続をとることを相続開始前に約束するものですが、この約束は無効です。相続開始前はこのような約束自体ができませんから、たとえそれを書面に残していても拘束力はありません。
したがって、相続人のうちの誰かがこのような約束をしていたとしても、実際に相続開始した後に相続放棄手続をとるかどうかは、完全にその相続人の自由意思に任せられています。
生前にこのような約束をしていたことを理由に、相続放棄を強制することは誰にもできません。
相続開始後の、口頭による相続放棄も無効
相続の開始後に、「自分は相続放棄する」と口頭で他の相続人に約束しても、それだけでは有効な相続放棄があったことになりません。必ず家庭裁判所に相続放棄の申述をして、これを受理してもらう必要があります。
そして、相続放棄の申述をするかどうかは、完全にその相続人の自由意思に任せられています。ですので、実際に相続放棄の手続をとるまでは、相続放棄をするという口約束には何の拘束力もありません。
遺産分割の口約束
相続開始前の遺産分割の口約束
遺産分割は相続人間の協議により行われます(民法907条)。しかし、相続が開始する前にした遺産分割協議は無効であり、拘束力を持ちません。相続が開始するまでは遺産の範囲、金額は確定しませんし、もっと言えば相続人が誰かも確定しません(親より先に子が亡くなるなど)。
ですので、相続が開始するまでは分割協議の前提を欠き、協議は法的に有効なものになりません。これは口約束だけでなく、協議の結果を書面にしていても拘束力がありません。
相続開始後に相続人全員でする口約束
相続開始後は、遺産分割協議をすることができます。この協議は相続人全員で行う必要がありますが、全員が口頭で合意しさえすれば協議は成立します。書面は必ずしも必要ありません。
仮に相続人がABCの3人で、話し合いでAは不動産をもらう、Bは預金をもらう、Cは株式をもらう、と決まれば、口頭で遺産分割は終了です。
この遺産分割協議による決定を口約束とみるなら、遺産分割協議の口約束は有効であると言えるでしょう。
贈与の口約束
贈与は契約であり、贈与者と受贈者の合意が必要ですが、要式契約ではないので契約書がなくても口頭で契約が成立します。
ただし、書面が作成されていない贈与契約は、契約内容が履行されるまでは当事者のどちらかが一方的に取消しすることができます。
ですので贈与の口約束は、有効ですが効力としては弱いと言えるでしょう。
相続における口約束を実効化する方策
以下では、相続における口約束を実現する方法として、次の4つを紹介し、解説していきます。
1遺言
2生前贈与
3死因贈与
4遺産分割
1遺言
遺言は、被相続人が生前において「自らの財産を誰に、どれだけ残すか」に関する意思表示です。
民法は、遺言について厳格な要式性を求めています。
その趣旨は、遺言の効力が発生した時点(遺言者が死亡した時点、民法第985条第1項)においては、もはや遺言者は権利能力の主体としての地位を失っており、その真意を確認することができないため、可能な限り疑義が生じることを避けることにあります。
民法は、普通方式の遺言として、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類を用意しています。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、次の事項をすべて自書するとともに、押印することが必要です。
・遺言の内容となる全文
自筆証書遺言は、その方式が簡単であり、特段の費用もかからないことが最大のメリットであるといえます。
また、遺言者が単独で作成することができるため、遺言の内容を当然には他人に知られることがないということもメリットとして挙げることもできます。
他方で、遺言書を補完する仕組みが用意されておらず、遺言書の滅失・偽造等の可能性が少なくないことや、専門家等による支援がない状態で作成されるため、遺言者が遺言に関する十分な知識がない状況でこれを作成した場合、遺言としての方式を欠いていたり、内容不明確なものとなってしまうおそれがあり、これらがデメリットであると言えます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、次の事項を要件とします(民法第969条)。
・証人2人以上の立会いがあること
公正証書遺言の場合その原本と正本が作成され、原本は公証役場に保管され、正本が遺言者に対して交付されます。
公正証書遺言は、自筆証書遺言とは異なり、法律専門家である公証人が作成に関与するため、民法が採用する遺言の様式性を担保することができるだけでなく、内容の不明確性を避けることもできることが最大のメリットです。
また、原本は公証役場で保管されるので、偽造等の心配もありません。
その一方で、公証人や2人以上の証人の関与が必要になるため、決して簡便な方式であるとはいえず、費用負担も必要になることがデメリットとなります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、次の事項を要件とします(民法第970条)。
・遺言者による証書への署名押印
秘密証書遺言は、公証人等が関与するため手続きが煩雑ではありますが、内容そのものについてはその関与がないため、不明確なものとなる危険があります。
加えて、遺言内容の秘密性が保持されるとしても、秘密証書遺言の作成自体については他人が関与しており、遺言が作成されたということ自体は他人に知られるわけであり、その秘密性が完全に確保されるものでもありません。
こうした事情から秘密証書遺言は、実務ではほとんど利用されていないのが実情です。
2生前贈与
まず、生前贈与とは、どのようなものであるかについて説明しましょう。
これは、被相続人がその存命中に、自己の配偶者や子供に財産を贈与することをいいます。
相続税対策の1つとして利用されることが多いといえます。
被相続人と配偶者等との贈与契約は、口頭でなされたとしても有効ではありますが、税務メリットを享受するためには、生前贈与の有効性を税務署に対して主張し、証明していく必要があります。
その意味では、贈与契約書をしっかりと作成し、疑義を持たれないようにすることが重要です
また、書面によらない贈与の場合、履行前であれば贈与契約の当事者は一方的にこれを解除することができます。
受贈者としては、自らの利益を確保するためにも贈与契約書を作成しておくべきです。
3 死因贈与
死因贈与とは、贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産をもらう人)との間で「贈与者が亡くなったときに、ある特定の財産を受贈者に贈与する」旨の契約を締結することです(民法第554条)
贈与契約に贈与者の死亡という不確定期限が付されたものであるといえます。
死因贈与は、通常の贈与契約と同様に口頭での契約であったとしても有効に成立し得ます。
しかし、贈与者が死亡した後において、口頭での死因贈与が成立していた旨の主張は、他の相続人との間でトラブルに発展する可能性が高く、無用な混乱を避ける意味でもしっかりと書面化しておくことを意識しておくべきであると言えます。
4遺産分割
遺産分割は、被相続人の財産を共同相続人間で分ける手法です。
例えば、被相続人の財産のうち、土地・建物は長女に、株式は長男に、郵便貯金は次男に、というように配分することを言います。
分割の方法としては、現物分割(現物の財産をそのまま配分する)の他に、換価分割(財産を売却し手代金を配分する)や代償分割(現物を特定の相続人が取得し、取得者は他の相続人に対して具体的相続分に応じた金銭を支払う)もあります。
遺産分割協議の当事者
遺産分割協議を行う当事者は、共同相続人、包括受遺者(民法第990条)、相続分の譲受人、遺言執行者(民法第1012条)です。
協議に参加すべき当事者の一部を欠く遺産分割協議は無効になります(相続人となるべき者の所在が分からないという場合も実務においては生じ得るところですが、その場合には不在者の財産管理人を選任したうえで遺産分割協議を行うことになります)。
遺産分割協議で定めることができること
遺産分割においては、「遺産分割自由の原則」により、法定相続分や指定相続分とは異なる割合で分割することも可能であると解されています。
遺産分割協議の結果については、全員が納得し、合意に至ることができれば成立しますので、書面化することが法的に必要というわけではありません。
しかし、後日の紛争を避けるため、遺産分割協議書を作成するのが通常です。
調停・審判による分割
当事者による遺産分割協議を行ったものの、協議が整わないということも起こり得ます。
その場合には、相続人は分割を家庭裁判所に求めることができます(民法第907条第2項)。
遺産分割は、審判事項であり、調停前置主義の適用はありませんが、通常、家庭裁判所は、職権で調停を先行させています。
相続に精通した弁護士を起用することの重要性
書面化は必須
相続においては多額の、事案によっては巨額のおカネが絡むため、親、兄弟等、親しい間柄であったとしても、大きなトラブルに発展することが少なくありません。
被相続人が亡くなった後、相続人間で財産をめぐってどの沼の紛争を繰り広げる事態に至ったとしたら、財産を残した被相続人もやりきれない気持ちになることでしょう。
そうした事態に発展することを避けるためにも、口約束のままにするのではなく、その内容をしっかりと書面に残しておくことがリスク管理として適切です。
遺言だけでなく、生前贈与、死因贈与における贈与契約書、遺産分割における遺産分割協議書についても必要な事項をきっちりと定めておくことが重要になります。
弁護士を起用することが解決の近道
・「誰に相談したらよいのか分からない」
このように考えている方もいることでしょう。こういうときこそ、相続問題に精通した弁護士をアドバイザーとして起用することを強くおススメします。
相続については、一般に相続税や贈与税等、税金をイメージすることが多く、税務専門家である税理士等を思い浮かべる人も多いですが、税理士のアドバイスだけでなく、法律専門家としての弁護士のアドバイスも非常に重要です。
相続に詳しい弁護士であれば、個別の事案について丁寧にヒアリングを行い、その事案に生じる論点・課題を的確に抽出し、それに対する対応策を用意してくれます。
また、弁護士は職務上、厳格な守秘義務を負っていますので、情報が漏れることを心配する必要もありません。
相続に関する正確な知識を持たない者が書面化を試みた場合、その事案について本来であれば加筆して定めておくべき条項があるにもかかわらず、それに気づくことができず、結果的に不十分な内容の書面となってしまうことを懸念します。
こうした事態を回避するためには、遺言をはじめ、相続問題に精通した法律専門家としての弁護士を起用することが最も安全であり、確実な方法であると言えます。
まとめ
この記事では、相続における口約束の有効性をはじめ、相続を確実に実行するための方法について解説してきました。
相続は多額のおカネが絡むため、従来の穏やかな人間関係が一変してしまう可能性を秘めています。
関係当事者間で落ち着いた協議ができればよいのですが、自分の利益を優先して確保したい気持ちが前面に出てしまい、冷静な協議とならないことも少なくありません。
後日における無用なトラブルの発生を避ける意味で合意内容を書面にしておくことは必須といえますし、それが法律上の要件を充足しないものとならないよう、相続問題に精通した弁護士を起用しておくことが重要です。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。