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遺産分割協議書にサインを迫られている

このページでは、遺産分割協議書に署名押印するに際し、どのような点をチェックすべきかを解説します。

遺産分割協議書とは

相続人間で遺産分割協議が終了したことを明らかにする文書が、遺産分割協議書です。

普通は、相続人の誰かが作成した「遺産分割協議書」というタイトルの文書で、だれが何を取得するかが書かれており、相続人全員が署名・押印(実印)する形式になっています。

この遺産分割協議書によって、不動産を取得した相続人は相続登記できますし、預金を取得した相続人はその預金の名義変更や解約をして引き出すことができます。

遺産分割協議書にサインしないとどうなるのか?

遺産分割協議書にサインしなけば、いつまでも遺産分割が終わりません。

遺産分割協議が終わるまで、遺産は相続人全員の共有状態にあり、遺産分割協議が終わればそれぞれが取得する財産はそれぞれ単独で権利を行使できるようになります。

相続人のうち誰かが遺産分割協議書へのサインを拒めば、遺産は相続人の共有状態がいつまでも続くことになります。

よく考えずサインしてしまって後から撤回できるか?

一度相続人全員で遺産分割協議を成立させたあと、それを修正・取り消しするためには、原則として相続人全員の承諾が必要になります。

したがって、よほどの理由がない限り、遺産分割協議のやり直しを求めることは事実上できないと考えてよいでしょう。

遺産分割協議書に署名押印する前のチェックポイント5つ

ここで、遺産分割協議書に署名・押印を求められた際に注意すべき点を5つあげます。

ポイント1:すぐに署名押印しない

最初のポイントは、遺産分割協議書を初めて見せられてその場ですぐに押印してしまわないことです。

遺産分割協議書に一度署名押印してしまうと、それを覆すのは非常に大変になります。必ずじっくり読んでから、署名・押印するようにしましょう。

たとえすぐに理解できそうなシンプルな遺産分割協議書に見えても、ポイント2以下で述べるように、チェックすべき点は多いからです。

相続税の申告期限は急ぐ理由にならない

実際のケースでよくあるのは、遺産分割を取り仕切る他の相続人から、相続税の申告期限が迫っていることを理由に急いで署名押印を求められるケースです。

しかし、相続税の申告期限は相続開始から10か月あります。

それまで再三にわたり遺産分割の内容を聞かされていれば別ですが、申告期限が迫るまで遺産分割協議の内容を明らかにしようとしなかったとしたら、それは遺産分割「協議」のプロセスとして妥当と言えるでしょうか。

遺産分割が未了のままでも相続税の申告はできますし、納税資金が足りなければ、分割協議が終わる前でも遺産である預金の引出し(仮払請求)もできます。

とにかく、慌てないことが大切です。

ポイント2:遺産がすべて遺産分割協議書に記載されているかを確認する

ポイントの2点目は、遺産分割協議書の中にすべての遺産がもれなく記載されていることを確認することです。

単純に漏れているケースがある

相続人の誰もが失念していた財産が漏れる場合があります。遺産分割協議書作成の時点で漏れている遺産があると、せっかく遺産分割協議書を作っても、漏れた遺産のためにもう一度遺産分割協議書を作成する必要があり、二度手間になります。

以下に遺産のリストから漏れがちな財産を記載しておきます。

・自宅不動産についてくる共有の私道/側溝/集会所などの共有持ち分
・耕作を放棄した休耕地・山林
・休眠預金口座
・信用金庫や共済の出資金
・所有する株式の未受領配当金

わざとあいまいな書き方になっているケースもある

こちらはもう少し巧妙で、AとBの相続人のうち、Aが取得する財産が具体的に遺産分割協議書に記載され、Bは「残りの遺産全部」と記載されるケースです。

「残りの財産全部」では、Bが何をどれくらい受け取るのかAにはわかりません。

遺産分割協議後の典型的なトラブルとして、ほかの相続人から遺産が全然ないと聞かされ、わずかな財産だけ受け取る内容の遺産分割協議書にサインしてしまったという事案がありますが、そういう事案の遺産分割協議書は、たいていこのように書かれています。

ポイント3:遺産の価値が正しく反映されているかを確認する

遺産分割協議書は、だれが何を取得する、という協議の結果だけが記載されるものです。

協議の中では、この財産はこれだけの価値があるという前提で、それぞれの相続人が取得する金額の計算をしていると思います。

その前提が正しいかどうか、計算の根拠となる資料を確認することが必要になります。

預金

遺産となる預金は,相続開始時の残高です。

これを直接証明するものは、預金残高証明書です。これは「いつ時点での」残高の証明かに注意してください。残高証明書は1時点の残高のみを証明するものであり、その前後の預金の変動を表すものではありません。

思ったより(被相続人から聞いていたより)相続開始時の残高が少ない場合は、相続開始前の預金の変動を証明する取引履歴を金融機関から取得した方がよいかもしれません。

また、相続開始時点の残高証明書の預金残高を前提に遺産分割協議をしたが、実際に協議を終えて解約するときまでに大きく残高が減っていたというケースもあります。

不動産

都市部の不動産の場合、市場価格と固定資産税評価額が大きく違う場合があります。

また、賃貸アパートなどの収益不動産の場合も、収益の状況によって実際の価値は大きく変わってきます。

いずれにせよ、不動産は絶対的な評価方法が決まっているわけではないので不当に安い(高い)評価になっていないかを確認しましょう。

ポイント4:遺産分割協議書の文言が解釈の余地なく明確か吟味する

これは例としては少ないですが、AにもBにも解釈できるような文言で分割内容を決めると、後日紛争の元になりますので注意です。

ポイント5:その遺産分割協議書は実際の遺産分割手続に利用できるか確認する

遺産分割協議書の記載(遺産分割の内容)によっては、実際の相続手続が遺産分割協議書だけで行えない可能性も出てきます。

たとえば、遺産である特定の銀行預金口座の残高の一部をA相続人、残りをB相続人で分割するような内容にすると、遺産分割協議書とは別に、銀行は独自の相続手続書式にAB両名の署名押印を求めてくることが多いです。

遺産分割協議書への署名押印を拒否したい場合

署名・押印を断る自信がない場合はどうする?

家族会議に呼び出されていて、どんな遺産分割協議書が出てくるかわからないが、その場で署名押印を求められたら断る自信がない、押し切られそうという方もいらっしゃるかもしれません。

そんな方には、その家族会議の場に印鑑を持参しないことをお勧めしています。そうすれば、遺産分割協議書を持ち帰ってじっくり読むことができます。

弁護士に相談する

弁護士に相談してからにしたいと、言ってその場での遺産分割協議書への署名押印を断れば、たいていの相続人は、すぐに署名・押印させようとはしません。

他の相続人にハンコを押すよううるさく言われている、と言って相談に来られる方は多いですが、弁護士から受任の通知をその相続人に送れば、督促が止まることが経験上多いです。

また、弁護士に相談すれば、遺産分割協議書の内容に不自然なところ、不公平なところがないかチェックすることもできます。その場合、他の分割方法を提案してもらうことも可能でしょう。

 

このコラムの監修者

  • 福田大祐弁護士
  • 福田法律事務所

    福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)

    神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。

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