相続登記をしない場合のデメリットについて
相続登記は不動産の相続時、名義変更時に必要な手続きです。しかし、「親の名義のまま変更していなかった」というケースをよく耳にします。では、不動産の相続登記を行わずにいると、具体的にどのようなデメリットがあるのでしょうか。
目次
不動産の相続登記とはなにか?なぜ必要?
まず不動産の相続登記について解説します。不動産の相続登記とは、簡単に言えば「被相続人(亡くなった方)が保持していた不動産が、誰のものになるのかを国に報告する」手続きです。もう少し専門的な言葉でいうと、「土地及び建物の物理的な現況と権利関係を公示するため、登記簿に登記を行うこと」といえます。
既にご存知の方も多いとは思いますが、不動産は「登記」によって所有者や、その他権利関係を第三者に証明します。この登記がなされていない不動産は、原則として売買や賃貸も難しくなります。いわば「不動産の”身元証明書”」のような役割を果たすのが登記です。
相続においては、それまでの持ち主が亡くなった以上、新しい持ち主をはっきりさせなくてはいけません。つまり「名義変更」ですね。この名義変更のためには、相続登記が必須です。実は法律上は、不動産の相続登記を義務付ける条文はありません。しかし、名義がはっきりしていない不動産は資産として価値が認められにくい他、さまざまなデメリットが生じてきます。
不動産の相続登記をしないでおくとどうなる?
では、不動産の相続登記をしないまま放置しておいた場合のデメリットを、具体的に見ていきましょう。
1.遺産分割協議が難航し費用や手間がかかる
相続登記には”期限”が存在しません。つまり、被相続人が亡くなってから、何年、何十年もあとに相続登記を行うことも可能です。しかし、時間の経過とともに家族や親類が増え、相続人が増えてしまったとしたらどうでしょうか。
被相続人が亡くなった直後は子供3人だけだった相続人が、世代を追うごとに増え、20人や30人に達する可能性もあります。しかも相続人同士の面識がないとなれば、遺産分割協議は難航するでしょう。相続登記にも多額の費用がかかります。一般的に相続人がふえるごとに遺産分割協議の手間やコストが増えますから、やはり早いうちに相続登記を行っておくべきなのです。
2.意図せず”差押え”の対象になる可能性がある
もし相続人のうちのひとりが、何らかの債務を負っているとき、相続登記されていな不動産を強制的に登記したうえで差し押さえられる可能性があります。
例えば、被相続人Aの子供、B・C・Dが相続人であるとき、相続登記をしていなかったとしましょう。このとき、相続人Bに対して債権をもつ第三者Eが、未登記の不動産の存在を知り、強制的にBさんに相続登記を行わせ、債権の代わりに差し押さえます。
こうなると、相続人AおよびCは、本来相続財産であるはずの不動産を取得できません。
このように、相続人ではない第三者の手にわたってしまう可能性があるわけです。また、不動産の相続登記は、相続人の一人が単独で行うことも可能です。このとき、自己の法定相続分について登記を行い、そこに対して勝手に抵当権を設定することもできます。
3.相続人の判断能力がなくなり遺産分割が難航する可能性がある
相続登記を何十年も放置していると、相続人の高齢化が進み、認知症などから判断能力を無くしてしまう方が出るかもしれません。このケースでも遺産分割協議自体は可能ですが、判断能力が無い相続人に対しては「成年後見人」を付ける必要があり、このための労力や手間がかかります。
4.遺産分割のための売却ができない
不動産のように分割が難しい相続財産は、一旦売却した後、売却益を相続人同士で分けるという方法があります。これは「換価分割」や「代償分割」と呼ばれる方法ですが、どちらの場合でも相続登記されていることが条件です。前述したように未登記で名義がはっきりしていない不動産は、売却自体ができません。また、売却が遅れることで土地や建物の価格が下落してしまう、といったデメリットも考えられます。
5.火災保険に加入できない可能性がある
相続登記がされていない不動産は、火災保険に加入できない可能性があります。保険会社によってケースバイケースとはいえ、火災保険に加入できないのはリスクが大きいですよね。
弁護士への依頼でデメリットとリスクを早期解決
このように、相続登記は義務ではなく期限も決められていないものの、決して「放置」してよいものではありません。今まで何の問題がなかったとしても、それは単に運が良かっただけともいえます。
自分の相続財産を守るためにも、相続登記はぜひ行っておきましょう。また、未登記のまま放置されている不動産が判明した場合は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。