子どもが小さいまま配偶者が亡くなった(特別代理人)
子どもが小さいまま配偶者が亡くなる相続について、どのような配慮が必要になるでしょうか。
ここでは幼い子どもを残したまま夫が死亡し、妻とその子どもが相続人になる例を考えます。
目次
遺産分割協議における親権者と子どもの利益相反
遺産分割協議
そもそも、相続人が妻1人であれば、遺産を分割する必要はありません。2人以上の相続人がいる場合に、遺産を分割する必要が出てくるのです。
そして、夫が遺言書を作成していれば、どのように分割するのかを話し合う必要もありません。
つまり、
①相続人が2人以上存在する
②遺言書がなく、各相続人が相続する財産が決まっていない
という場合に、話し合い(協議)によって遺産を分ける遺産分割協議が必要になるのです。
法定代理人として遺産分割協議できない
通常、未成年者が契約や取消といった法律行為をするとき、原則として法定代理人の同意が必要です。一般的には父母、保護者がそれにあたります。民法でも20歳未満の未成年の子の財産は親権者である父母による管理が認められています。
未成年の判断能力は、成年に比べて未熟であると考えられているからです。
遺産分割協議の場合も、子どもが未成年の場合には協議をすることは不可能です。ですので、未成年の子どもについては親権者が法定代理人となり、子どもの代わりに遺産分割協議ができるように思えます。
しかし、相続の場合、残された妻と子どもの両方が相続人になり、子どもの相続分は妻の相続分以外になるという関係にあります。
残された妻は、自ら相続人という立場と、もうひとりの相続人である子どもの代理人という相反する立場を行使することになり、子ども利益を犠牲にして自らの有利に相続を行うことが可能になっていまいます(これを「利益相反」といいます)。
民法では「親権を行う父又は母とそのことの利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」(民法862条1項)とされています。
そのため、子どもが同時に相続をすることになった場合は、公平に相続が行われるように、子どもに特別代理人をつける必要があるのです。
特別代理人について
特別代理人の選任方法
親権者である妻が、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所へ特別代理人選任申立書を提出します。
申し立てに必要な費用は、子ども1人につき800円の手数料がかかります。
特別代理人選任の申し立てをするためには、以下の書類が必要です。
①特別代理人選任申立書
②子どもの戸籍謄本
③親権者の戸籍謄本
④候補となる特別代理人の住民票か戸籍附票
⑤遺産分割協議書の仮案
※その他必要な書類がある場合には、状況に応じて追加で提出することもあります。
誰が特別代理人になるのか?
被相続人である子どもの親権者である妻は、基本的に特別代理人になれません。前述したとおり、子どもの利益を犠牲にして自らの有利に事を進める可能性が高くなる(=利益相反の可能性がある)からです。
ただし、妻が相続放棄してその子どもだけが相続人となった場合は、妻が特別代理人になることが認められています。
また、夫と妻のあいだに未成年の子どもが2人いる場合は、それぞれに特別代理人を選任する必要があります。
夫:被相続人
妻:相続人
子ども1:特別代理人1が相続を代行する
子ども2:特別代理人2が相続を代行する
また、妻が相続放棄して特別代理人となる場合は、子ども2人両方の特別代理人になることができません。誰かもう1人、妻以外の特別代理人を選任する必要があります。
夫:被相続人
妻:相続放棄後、子ども1の特別代理人として相続を代行する
子ども1:妻が特別代理人として相続を代行する
子ども2:妻以外の特別代理人が相続を代行する
特別代理人は誰でもなることができますが、一般的には叔父や叔母など相続権のない親族が特別代理人になるケースが多いようです。
紛争性のある遺産分割においては、裁判所は弁護士を選任することがほとんどです。
特別代理人をつけずに遺産分割してしまったら?
利益相反にある親権者が子どもの代理人として、特別代理人を選任しないまま遺産分割してしまうとどうなるでしょうか。
親権者として代理権限がないにも関わらず遺産分割協議してしまうと、その遺産分割協議は無効になります。
したがって、その遺産分割協議にしたがって行った具体的な遺産の処分も、すべて無効になる可能性があります。
もし、子どもが小さいまま配偶者が亡くなったのでどのようにすればよいのかわからず困っているといった場合には、まずは一度、遺産問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
このコラムの監修者
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福田法律事務所
福田 大祐弁護士(兵庫県弁護士会)
神戸市市出身。福田法律事務所の代表弁護士を務める。トラブルを抱える依頼者に寄り添い、その精神的負担を軽減することを究極の目的としている。